仏マクロン大統領「反ワクチン論者」猛烈批判の訳 波紋を呼んだ発言の背景には4月の大統領選

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激戦が見込まれる一因は極右候補の票がぺクレス氏へ流れることだ。ル・ペン氏支持者の37%、ゼムール氏を支持する人の47%が2回目はぺクレス氏に投票すると答えている。ぺクレス氏は不法滞在者への社会的給付廃止、学校でフランス語を話さない生徒数に1クラスあたりの上限を設けるなど移民に厳しい政策を打ち出しており、極右候補支持者の票の受け皿になるとみられる。

ぺクレス氏が歴代の多くの大統領と同様、エリート教育を受けていることや、「勤勉さ」「思慮深さ」「理路整然とした話し方」が評価されている面もあるという。同氏が掲げる15万人の公務員削減、失業手当の減額など行財政改革への取り組みは、「マクロン氏の考えに近い」との指摘も少なくない。

このため、ワクチン接種に焦点を当てることで、ぺクレス氏との政策面の違いを際立たせようというのがマクロン氏の戦略とみられる。カステックス首相も「大統領が述べたことはいたるところで聞いている」などとワクチン接種の正当性を強調するマクロン氏を擁護した。

選挙の争点を絞りたい?

フランスの調査会社イプソスが昨年12月に実施した世論調査によると、反ワクチンデモなどの動きに対して、「理解できない」との答えが全体の6割近くに上った。大統領選の1回目でマクロン氏への投票を予定している有権者では90%が「理解できない」と回答。他方、ぺクレス氏に投票予定の有権者で「理解できない」と答えたのは76%、ル・ペン氏とゼムール氏ではいずれも47%にとどまる。

つまり、マクロン氏の「失言」は他の有力候補の支持者の間で、ワクチンをめぐる賛否が対立していることを念頭に置いた面もありそうだ。フランスの「ル・モンド」紙のフィリップ・メスメール記者は「コロナ感染対策に争点を絞り、他の問題にはほとんど触れたくないと考えている」と指摘する。

もっとも、マクロン氏の率いる与党・共和国前進の内部でも全面的に歓迎されているわけではなさそう。「(与党内で)発言に対する反応が割れていることも付け加えておかなければならない」(メスメール記者)。現時点で大統領選への影響は読み切れないが、マクロン氏には選挙のためにワクチン強化をアピールしたい思惑があると言えそうだ。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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