新日鉄住金を悩ます、中南米戦略の"誤算" 傘下のブラジル企業をめぐり攻防が勃発

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株主間協定とはブラジル独特の制度で、役員の選任や株式の売買など重要事項について大株主が優先的に決定する権利を持つというもの。協定内の持ち株比率は新日鉄住金が46.1%と、テルニウムの43.3%を上回る。新たに購入した株を協定に盛り込むには、両社の合意が必要だ。

イパチンガ製鉄所はブラジル南東部のミナスジェライス州にある

ウジミナスは1962年に旧新日本製鉄の技術援助によって生産を開始した。新日鉄住金グループにとって海外で唯一、基幹設備である高炉を備えた生産拠点だ。

同社をめぐっては2011年にもブラジルの大手鉄鋼メーカー、ナショナル製鉄が買収をもくろみ、紛糾した経緯がある。その際に新日鉄が、既存の協定株主に変えて経営陣へ引き入れたのが、テルニウムだった。

テルニウムを無下にできない事情

現在、新日鉄住金とテルニウム間で結ばれている株主間協定は2031年まで継続されるが、両社の合意があれば解消も可能。新日鉄住金にとって頭が痛いのは、テルニウムがウジミナスの大株主であるだけでなく、事業パートナーでもある点だ。

両社は昨年8月、メキシコで約300億円を投じて自動車用鋼板の合弁工場(テニガル)を立ち上げた。メキシコの日系自動車メーカー向けに鋼材を供給する重要拠点となっている。

テルニウムが株式を追加購入したことで、保有株数と経営権との間にねじれが生じることになる。「2011年にテルニウムを引き込まず、自社でウジミナス株を取得していれば、こうした事態にはならなかった。今度こそ、新日鉄住金は買い増しを迫られるのではないか」と、冒頭の業界関係者は推測する。

市場関係者からは「これ以上関係を悪化させないためにも、早々の手打ちが必要だ」との声が強い。ただ、現時点で新日鉄住金は静観の構えを崩していない。当時の失着をかみしめて、“妙手”を打つことができるのか。次の一手に注目が集まる。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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