日本の円は高すぎない 今までが安すぎただけ--リチャード・カッツ

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 一部の人たちは、円高は製造業にコスト削減を強いるため、賃金を圧迫すると主張している。だが、事実はこうした理論を支持していない。

一つ目に、工場労働者が受けた被害は、他分野の労働者よりも軽い。97年以降、経済全体では名目賃金は約7%低下したが、従業員30名以上の製造業では名目賃金が1・7%増えた。第二に、円が安くなれば、必ず賃金が上がるわけではない。00年代半ばの円安期においても、製造業はかつてのような気前のよい賃上げを行わなかった。

いずれにせよ日本政府は円の価値を制御できない。日本政府が03年から04年に行ったような巨額の市場介入を繰り返す気がないのなら、円の価値は世界貿易や資本移動、金利などの要因で決まる。

過去10年、円ドル相場を最も的確に予測する指標となったのは、日米の長期金利差の動向であった。長期金利の差の変化は、FRB(米国連邦準備制度理事会)の金融政策を含む米国側の状況によって決定されてきた。その意味で、FRBは日本政府や日銀よりも円ドル相場に大きな影響力を持っていたのだ。

円の名目価値の上昇に右往左往するよりも、日本は短期的、長期的な経済成長を支援する政策の実施に関心を集中すべきである。

(週刊東洋経済2010年9月25日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

Richard Katz
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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