(第32回)米国の国際収支でのサービス輸出の貢献

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産業の比較優位を示す国際収支データ

サービスは国内で就業機会を拡大するだけでなく、国際収支上も重要な役割を果たす。その実例がアメリカだ。国際収支は国や産業の比較優位を端的に示すことになるので、この面からも国際収支データを詳細に見ることが有用だ。

歴史的に見ると、アメリカ国際収支の構造は、かなり顕著に変化してきた。60年代には、財収支が黒字であり、サービス収支が赤字だった。つまり、現在の日本と同じような国際収支の構造だったのである。たとえば、60年においては、財収支が49億ドルの黒字であり、これがサービス収支の赤字14億ドルをカバーして、経常収支を黒字にしていた。

財収支の姿は、70年代の石油ショックによって輸入原油の価格が著しく上昇したため、大きく変わった。赤字と黒字が交互するようになり、70年代末からはかなり巨額の赤字が定着した。この傾向はその後も続き、87年には赤字が1596億ドルを超えた。その後一時的には赤字が縮小したが、90年代末から再び拡大し、06年には実に8395億ドルの赤字を記録したのである。

その半面で、サービス収支は70年代以降継続的な黒字に転じた。黒字の拡大は、特に90年代以降に目覚ましい。サービス収支の黒字が財収支赤字の半分程度になることもしばしばあった。

09年においては、財収支が5069億ドルの赤字で、サービス収支が1320億ドルの黒字である(なお、輸出額で見れば、09年におけるサービス輸出は5023億ドルであり、財輸出1兆0685億ドルの半分程度の規模である)。

「脱工業化が進展すると経常収支が赤字になる」との考えが一般的だ。確かにアメリカの経常収支も、70年代後半以降継続的に赤字であり、その原因は財収支が赤字になったことだ。しかし、生産性の高いサービス産業が成長すれば、サービス収支が黒字になり、財収支の赤字をかなりの程度オフセットできるのである。そのことを、アメリカの国際収支が示している。

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