「親身な人事部」が働かないオジサン化を防ぐ 社員のやる気を引き出す「選択と個別交渉」

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また、あるメーカーでは「キャリアリターン制度」という名称で、一度自己都合退職した者が、再度チャレンジすることができる再雇用制度を導入している。これまでに10人弱の実績があるという。こういった「出戻り社員」の検討も、中高年社員の働き方にとって有効であると思われる。

新卒一括採用の弊害を修正する

この連載の第3回「『就活』が、働かないオジサンを生む!?」で、「働かないオジサン」を生み出す構造を形作っているのは、毎年の新卒一括採用とピラミッド型の会社組織であると説明した。当然ながら、新卒一括採用を前提とする日本の雇用システムには、良い面と悪い面があり、光の部分もあれば、影の部分もある。

この影の部分を修正するためには、先ほどから述べている社員への選択の提示と、その要望を受けた個別交渉を人事運用に結び付ける力量が、会社に求められている。制度や規定を前提とした、一律的な人事運用を修正しなければならない。それには相当な困難と手数を伴う。しかしこの壁を突破しなければ、実効性のある人事運用の効果は期待できない。

また「選択と個別交渉」の運用は、中高年社員だけでなく、優秀な社員をモチベートする機能も期待できる。余人をもって代え難い能力を持つ社員の意欲に応えるためには、単に報酬を上げるだけでは不十分だろう。仕事に飽きずに才能を伸ばし続けてもらうためには、個別に本人の要望を取り入れながら、相互に交渉していく姿勢が会社側に求められる。

昨今の女性管理職の登用の課題も、従来の制度や規定を前提とした一律的な対応では、実現することは難しい。海外の現地社員への対応についても同様である。

年次別一括管理の弊害を修正するには、こういった「選択と個別交渉」が必要である。同時に、社員のスキルや適性を十分に見極めない新卒一括採用を改め、自社にフィットした職種別採用への切り替えを検討すべき時代が来ている。

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楠木 新 人事コンサルタント

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くすのき あらた / Arata Kusunoki

1954年神戸市生まれ。1979年京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を経験。47歳のときにうつ状態になり休職と復職を繰り返したことを契機に、50歳から勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年に定年退職した後も精力的に活動を続けている。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表。著書に、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『定年後』『定年準備』『転身力』(共に中公新書)など多数。

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