衆院選「各党のネット戦略」詳細分析で見えたこと 今後は政党間格差が広がってしまう懸念もある

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特設サイトでも有権者に語りかける取り組みは少ない。誰でも見られるSNSの場でフォロワーと会話することも限られ、双方向的な対話や意見交換は候補者個人が行うことはあっても公式が行うことはあまりない。

SNSの活用が注目された候補者としては、香川1区で初代デジタル大臣の平井卓也氏に勝利した立憲民主党の小川淳也氏などがいる。各種SNSで公開する写真や動画の質が他の候補者より優れていただけでなく、ユーチューブのライブ配信機能を用いて有権者との長時間の質疑応答を実施し公開するなど、難易度の高い投稿も積極的に行っていた。

効果や評価は不明確な部分が相変わらず多い

さてこのような質の高い投稿を他の候補者もするようになるのか、政党として展開しサポートする体制は広がるのだろうか。

対面だけでなく、オンライン上でも有権者と対話する機会を増やすことは有権者と候補者の距離を近づけ、相互理解や問題意識を育むことに繋がると期待される。ただ、SNSを用いた有権者との双方向的なコミュニケーションは管理しにくく、炎上のリスクもあることから避ける候補者も多い。

ネット戦略に関しては炎上やフェイクニュースの問題もある。匿名性の高いSNSにおける攻撃的な投稿の実態についてはまだわかっていないことが多く、ハラスメント行為についても対策が遅れている。野党批判を繰り返したツイッターアカウント「Dappi」と自民党との関係が疑われるなど、政党や候補者による不正行為があった可能性も浮上している。

また、ネット戦略をめぐって今後、政党間の格差が広まる懸念もある。ネット戦略を支援するビジネスが成長するなか、政党や候補者もその恩恵を受けてより発展的な取り組みをすることができるようになっていくだろう。だが、それは選挙活動が高額化することも意味し、活動資金の少ない政党や候補者は今後、さらに苦戦を強いられる可能性がある。

選挙におけるネット戦略はまだ過渡期にあり、変化が激しい。その効果や評価については不明確な部分が相変わらず多く、懸念点も残る。

しかし、特設サイトや各種SNSを運用することは選挙活動の一環として定着している。マスメディアを介さず直接有権者とコミュニケーションする手段として年々洗練されていくことが予測されるなか、ネット選挙が選挙そのものや民主主義にどのような影響を与えるのか、引き続き注目していく必要がある。

国枝 智樹 上智大学文学部新聞学科准教授/『GALAC』副編集長

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くにえだ ともき / Tomoki Kunieda

1984年ベルギー生まれ。専門研究領域は広報・PR論。共編著に『Public Relations in Japan』(Routledge)、監訳書に『アージェンティのコーポレート・コミュニケーション 経営戦略としての広報・PR』(東急エージェンシー)がある。

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