世界史の構造 柄谷行人著 ~「永遠平和」の実現の理論体系化を試みる

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 マルクスの限界を見抜いていた著者は、冷戦終焉後の新たな運動がカントのいう「永遠平和」、すなわち「たんなる戦争の不在としての平和ではなく、国家間の一切の敵対性……国家の廃棄」へ向かう道につながると期待したが、それも前述した壁(ネーション)に阻まれた。そこで、著者は従来の考察を根本的にとらえなおし、自らの「理論体系を創る必要を感じ」、本書の構想に取り組んだのだ。

著者のいうボロメオの環(資本=ネーション=国家という三位一体のシステム)から資本と国家を揚棄するには両者への対抗運動ではなく、ネーションの土台である互酬を高次元で回復した「新たな交換様式にもとづくグローバル・コミュニティ」の徐々なる実現が必要なことは、すでに『世界共和国へ』で明らかにされていた。しかし、「永遠平和」の実現を単なる理想論ではなく、カントのいう「統整的理念」として体系的に示すことは、深い思考力を持つ著者にとっても時間を要する困難な作業だったに違いない。

著者は「本書をもって、とりあえず最終的なヴァージョンとしたい」というが、著者の企みを完成させるまでにはカントとマルクスが際会をなお重ねる必要があるのではないだろうか。

からたに・こうじん
文芸批評家。1941年生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学大学院英文学修士課程修了。69年、『「意識」と「自然」-漱石試論』で群像新人文学賞。75~77年、80~81年、83~84年に、エール大学、コロンビア大学の研究員を務める。

岩波書店 3675円 504ページ

  

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