時代遅れの農業保護が経済成長を妨げている 「TPP聖域5品目」の代償はあまりにも大きい

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牛・豚肉は農産品「聖域5品目」の一つ

環太平洋経済連携協定(TPP)に関して安倍政権は、農産品の「聖域5品目」(コメ、牛・豚肉、乳製品、麦、砂糖)の関税撤廃を阻止しようと、固く決意している。農業団体の意向を重視することで日本の一般国民が払う代償は大きく、農業部門が生み出す生産高全体の実に数倍に上る。

最も端的なのは食品価格だ。日本では家計全体の13.7%が食品の購入に充てられた(2012年)。この割合は、米国の6.3%、英国の9.3%と比べはるかに高い。これをたとえば11%に引き下げると、消費者が食品に支出する額は、年間7兆5000億円減る計算になる。農業部門の国内総生産(GDP)の5兆4000億円をはるかに上回り、「聖域5品目」の生産高(3兆6000億円)の2倍を超える。

農家への補助金は4兆円超

しかも、農家には政府が補助金を提供していて、これが農家の収入全体のほぼ半分を占めている。2009年には、補助金の額は4兆3000億円に上った。

食品価格が下がり、農家への補助金を減らせば、何兆円ものカネが浮く。消費者は浮いたカネを食品以外への出費に充てることができ、結果としてそれらの産業の成長が促進される。

TPP交渉が頓挫したら、日本はどんな犠牲を払うことになるか。ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所(PIIE)のピーター・ペトリ氏の推定では、TPPへの参加で、日本のGDP成長率は25年まで平均0.22ポイント伸びる。完全雇用下での長期的潜在成長率が0.5~1%と見込まれているから、0.22ポイントが追加される意義は決して小さくない。

農地はほかの土地より課税目的での評価が格段に優遇されている。評価の仕方は不透明だが、最近の報道では、一般農地は1000平方メートル当たり1000円が課税されている。2ヘクタールの土地を耕す平均的な農家は、1年当たりわずか2万円の税を払えば済む。対照的に、宅地は1000平方メートル当たり18万円が課税されるのも珍しくはない。農地と比べて実に180倍だ。

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