時代遅れの農業保護が経済成長を妨げている 「TPP聖域5品目」の代償はあまりにも大きい

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農地への優遇税制については、かなり疑わしいケースも見受けられる。東名阪の3大都市圏(11都府県)の農地の中にはこんなケースもある。農家が郊外に土地を所有しているが、高齢を理由に自らは耕さず、知人の都市住民に土地を貸し、この知人が週末に趣味として耕している。こうした「農地」は、3大都市圏の山林を除く土地全体の30%にも上る。

大都市圏にある農地の税率を、宅地の税率の半分にまで引き上げると、政府の税収は年間5000億円増える。税率引き上げの対象農地を、大都市圏だけでなく日本全体に拡大した場合には、税収は同4兆2000億円も増加し、消費税を5ポイント引き上げた場合の税収増に匹敵する。

今では農地全体の8%が耕作放棄地となり、住宅の13%には人が住んでいない。地方で人の住まない住宅が増えたのは、高齢化する農家に後継者がいないために人口が激減したせいだ。住宅が置き去りにされ朽ち果てると、地域社会にとって厄介な問題となるが、そうかといって所有者が家を撤去すると、今度はその土地にかかる税金が4倍にハネ上がる。

時代遅れの土地利用法制

時代遅れの土地利用法制が、農地の売却を非常に難しくしている。アグリビジネス(農業関連企業)が賃借できる土地は増加傾向にあるが(現在は農地の約6%がアグリビジネスに利用されている)、企業の農地買収は制限されている。

転用目的での農地の売却については、法規制はさらに厳格だ。この制度が不自然な土地不足を生み出し、日本全体で住宅、ショッピングモール、オフィス、工場用の土地の価格が高騰している。

法律を改正し、農地を転用目的で売却すれば、ずっと高値で売れる。地方では10倍もの高値で土地が売却できるようになる。農地の転用が進み、オフィスや工場の建設コストが低下すれば、GDPがどれほど伸びるか。経済成長が勢いづくことでどれほどの税収増が期待できるか、考えてみてほしい。

週刊東洋経済2014年10月4日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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