世界の製薬業界は「特許切れ」リスクが収益を圧迫、見通しはネガティブ《ムーディーズの業界分析》

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 今後の特許切れに関して、業界が良好な後期段階パイプラインを維持しているのであれば、ムーディーズはそれほど強い懸念を抱かない。しかし、後期段階パイプラインの質は、多くのメーカーで、絶対数ベースでも現在の売上高比でも良好とは言いがたい。業界のR&D(研究開発)予算は過去数年間で倍増したにもかかわらず、FDA(米国食品医薬品局)による承認件数は伸び悩んでおり、生産性およびイノベーションの面では見劣りがする。

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世界における医療保険改革の取り組み

米国の医療保険改革法の短期的なコストは、ムーディーズが当初予想していたものより大きくなるだろう。プログラムの財源としては、高所得者層からの税金、製薬業界および医療機器業界に新たに課す手数料などが用いられる。製薬業界は、医療保険対象者の拡大により恩恵を受けるとみられるが、そうしたプラスの影響は、基本的に保険対象が拡大する2014年以降になるとみられる。その影響を計測することは難しく、新たに対象となる層が医薬品の大量使用者でなければ、それほど大きくはならない。米国勢調査局のデータでは、無保険者の65%は35歳以下で、80%以上は45歳以下と、高齢者に比べて処方薬の使用が少ない年齢層である。

医療保険改革への取り組みは、多くの国が多額の財政赤字を抱える中、世界的に広がりをみせている。こうした改革は、主に医薬品価格の引き下げを狙いとしている。EUでは、医療保険改革および医薬品価格への圧力は、業界の継続的な課題である。今年もこれまでのところ、トルコ、ギリシャ、スペインで改革が行われ、医薬品価格が引き下げられた。他国でも追随して改革が行われたり、構造的な赤字への対応として緊縮策がとられたりしており、そうした中で、価格引き下げ圧力はさらに高まるとみられる。参照価格(医薬品価格が他の欧州諸国の価格を基準に決定される仕組み)が広く用いられているが、ある市場での大幅な値下げが、他の国々のさらなる値下げにつながることが考えられる。

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