ニホンウナギ養殖制限、"国際合意”の舞台裏 資源管理に向けた一歩だが課題もある

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結局、表に出てきたのは、直近1年の実績から2割減という基準。これに照らした各国の養殖制限量は、日本が当初提案したとされる過去3年平均の実績より多い。業界関係者からは「結局、各国が“笑顔”で終われる合意になった」と皮肉る声も漏れる。

2割減という割合については「ウナギはマグロと違って(資源量を)評価できる状況にない。その中で自主的な措置として相談し、頑張ってやりましょうとした数字」(太田課長)。ウナギ研究が専門の吉永龍起・北里大学講師は「水産庁として初めて養殖量をコントロールできるようになった。これは評価に値する」と言う。

養殖量の制限方法に課題

一方、前年実績のみに基づく制限について、「稚魚の漁獲量は毎年、大きく変動するもの。仮に去年より今年の漁獲量が減った場合、採れる稚魚すべてを養殖池に入れられる可能性もある」と指摘する。日本の場合、今年11月から1年間、養殖池に入れられる上限量は21.6トンだが、仮に不漁で10トンしか採れなければ、その上限に達することなく稚魚を養殖に使い尽くす格好になる。

今回の合意では、各国が民間団体を新設し、業者を管理することも盛り込まれた。日本では内水面漁業振興法に基づき、養殖業者は11月から届け出が必要となる。水産庁は科学的な根拠に基づいた資源管理を行うため、データの収集も進める意向。今回の制限に罰則はないが、法的拘束力のある制度創設に向けた議論も開始する予定だ。

資源保護に向け、今回の規制だけでは不十分と水産庁も認めている。足りない箇所を埋める試行錯誤が今後も続きそうだ。

「週刊東洋経済」2014年9月27日号<9月22日発売>掲載の「核心リポート04」を転載)

又吉 龍吾 東洋経済 記者

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またよし りゅうご / Ryugo Matayoshi

2011年4月に東洋経済新報社入社。これまで小売り(主にコンビニ)、外食、自動車などの業界を担当。現在は統括編集部で企業記事の編集に従事する傍ら、外食業界(主に回転ずし)を担当。趣味はスポーツ観戦(野球、プロレス、ボートレース)と将棋。

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田野 真由佳 東洋経済 記者

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たの まゆか / Mayuka Tano

2009年に大学を卒業後、時事通信社を経て東洋経済新報社に入社。小売りや食品業界を担当し、現在は会社四季報編集部に所属。幼児を育てながら時短勤務中。

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