(第29回)貧富格差の拡大に経済政策は無対応

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 生活保護世帯数の推移を見ると、60年代頃までは50万~60万世帯程度であった。70年代に徐々に増加し80万世帯に迫ったが、80年代後半から減少し、92、93年には58万世帯まで低下した。これは、基準が厳格化された結果でもあるが、所得が増加した影響が大きい。生活保護を受けている世帯数を総世帯数で割った保護率で見ると、93年には14%にまで低下した。しかし、ここがボトムで、その後は増加に転じた。そして、05年度に、生活保護世帯は104万世帯となり、100万世帯を超過した。その後は毎年3万~4万世帯程度、増加しており、09年12月には、保護世帯数が130万を超えた。

このように、生活保護世帯数は増えている。そして、変化の傾向は世帯所得分布で見た傾向と同じものだ。しかし、絶対数を上で述べた世帯所得分布の数字と比べれば、遥かに少ない。

非正規労働の増加による低賃金労働者の増加

したがって、低所得階層の世帯の圧倒的大部分は、生活保護を受けていない低賃金労働者によって構成されていると考えられる。つまり、過去、十余年間の変化は、「低賃金労働者の増加」である。そして、この傾向は、非正規労働者の増加傾向と、ほぼ同じである。

90年代中頃以降の日本の雇用者の増加は、ほぼ非正規労働者の増加によって実現してきた。正規雇用者数は90年代前半までは増加し、90年代中頃には3800万人程度となった。しかし、90年代後半から減少し、最近では3300万人程度と80年代中頃とほぼ同水準に戻っている。

これに対して非正規労働者は、80年代中頃には600万人程度であったが、傾向的に増加し、90年代中頃には1000万人を超えた。そして、03年には1500万人を超え、08年秋には1800万人に近づいた。低所得世帯構成員を2人の非正規労働者(たとえば、夫が製造業の派遣労働者、妻がパートタイマー)と考えると、90年代中頃から世帯数で見て400万世帯ほど増えたことになる。したがって、最近に見た所得300万円未満世帯の3分の2程度は、非正規労働者で構成されていると考えられる。なお、最近では、5472万人の雇用者のうち、正規雇用者が3386万人で約3分の2を占め、非正規の雇用者が1699万人で約3分の1となっている。

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