「日本の劣化」、安倍政権が加速させている 笠井潔×白井聡、『日本劣化論』延長戦(前編)

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笠井:それに加えて、解釈改憲に反対する側の論理は9条擁護の立場からのものが多いですが、僕は戦後平和憲法を守れという立場からの集団的自衛権反対では、あまり力をもたないというふうに思っています。そもそも自衛戦争なんてないという立場から、批判すべきではないかと。

自衛戦争という概念は、第1次世界大戦後に確立されました。日本も調印したパリ不戦条約で、戦争が非合法化されたからです。先に戦争を始めると、それは侵略戦争ということになり、戦争を仕掛けられた側の戦争は自衛戦争ということになりました。

第二次大戦の戦後体制として、連合国によって国連が結成されました。国連憲章によれば、国連軍が出てくるまでの間、侵略された国は自衛権を行使して自衛戦争を戦うことができるというのが、個別的自衛です。それに対して、周辺の国が侵略された国の自衛戦争を援助できるというのが集団的自衛権です。いずれも国連軍(=世界国家の軍隊)が実効的に存在することを前提としています。

集団的自衛権はどのような意味を持つのか

笠井: しかし第二次世界大戦の直後に米ソ冷戦がはじまり、国連は有名無実化していきました。また米ソいずれも、従属国が自国の支配下から逃れようとするときに軍事力を行使するようになります。たとえば、ハンガリー動乱の時、ソ連が戦車出して潰しました。アメリカは、ベトナム戦争で50万人の軍隊を送り込みました。国連憲章の定義からは大きく逸脱して、これらが集団的自衛権の行使とされてきたわけです。つまり、米ソが自陣営を守る時のために口実として集団的自衛権は使われてきました。

冷戦終結後の21世紀に、集団的自衛権はどのような意味を持つのか。これは正面から考えるべき問題ですが、今回の集団的自衛権の行使容認是か非かの議論では、ほとんど考えられていません。「日本人を載せた米軍の船が……」というような、内容空疎なたとえ話が語られただけです。

※後編は日本は「イスラム国」掃討に行きたがっている

東洋経済オンライン編集部

ベテランから若手まで個性的な部員がそろう編集部。編集作業が中心だが、もちろん取材もこなします(画像はイメージです)

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