日本がスコットランド独立投票から学ぶこと 東京と北海道や沖縄が、将来も「共存共栄」する条件

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ただ、財源的な裏付けはともかく、行政のニーズは、近年わが国でも地域差が顕著になってきているのは確かである。2000年代に大々的に行われた地方分権改革は、その反映でもあった。

そう考えれば、行政ニーズが他地域と比べてかなり異なるからといって、独立国にまでなる必要はなく、中央政府が持つ権限を地方政府に適切に移譲することを通じて、各地域の行政がよりよく住民のニーズに応えられるようになる。

「財政連邦主義」的な発想による、国家運営の手法も

今般のスコットランド独立住民投票の結果をみると、スコットランドは、独立を求めるよりも、地方分権改革を求めた方が、筋がよかったのかもしれないと思う。もちろん、スコットランドの将来は、スコットランドの住民が決めることだから、余計なおせっかいかもしれない。

しかし、スコットランドと、それ以外のイギリスの地域との違いから利害対立が生じているとすれば、通貨や外交などという国家主権に根差したものというより、財政政策にまつわる好み(選好)によるものが主だったともいえる。現に、スコットランド独立賛成派は、もし独立したら英ポンドを引き続き使いたいと主張していた。

世界的にみれば、国家として独立することはないが、財政制度では国内で地方分権改革を行って、擬似的な連邦国家のようになるという、財政連邦主義がある。そして、近年では、財政連邦主義的な発想で行財政の地方分権化を進める国が出てきている。

そもそも、アメリカやカナダやドイツのように連邦国家もあるが、イタリアや中国のように単一国家でありながら財政連邦主義的な制度を採用している国もある。各地域で住民のニーズを反映した行政サービスができる半面、地域間の税収格差是正は大々的に行わない。財源の多寡に差異があったからといって行政サービスに地域差が生じても許すという割り切りが必要だ。

このようにして、スコットランド独立住民投票の経緯を眺めると、中央政府と地方政府の権限と財源の配分をどうすればよいか、かなり深い論点を、わが国に対しても示してくれていたようだ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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