(第41回)贅沢生活のツケ・その1

山崎光夫

 知人が糖尿病との診断を受けた。
 「いやー、食事制限がこれほどたいへんとは知らなかった」

 1日1800キロカロリーを超えないように、3度の食事ごとに80キロカロリーを1点とするカロリー計算を行なって、1日23単位以内の食事にする。食品別に1単位がどの程度の量になるか、いちいち覚えなければならない。しかも、バランスよく食事を摂る必要がある。まず、外食を極力廃止して、昼食は弁当持参に切り替えた。

 「これまで何も考えずにガバガバ食いすぎた。
 そのツケが今、あらわれてしまった」
 知人は突き出た腹をなでながら反省しきりである。

 糖尿病は、膵臓から分泌されるホルモンのインスリンが不足して起こる病気。食後、一時的に血液中のブドウ糖の濃度が高くなるが、このときインスリンが正しく働いていれば正常値に戻る。しかし、インスリンの働きが異常をきたすと、血液中にブドウ糖があふれ出して、尿にも糖がでてきてしまう。多尿、のどの渇き、体重減少などの症状があるものの、痛くもかゆくもないので、ほとんど気づかずに進行する。

 主な原因は、過食と運動不足、ストレス過多。病気を放置しておくと、神経障害(しびれや痛み)、網膜症、腎臓障害を引き起こす。心筋梗塞や失明、脚切断などをもたらし、この合併症が恐い。

 このところ、後天的に糖尿病に罹る2型糖尿病が激増している。その波が知人のところまで押し寄せてきたようだ。
 統計によれば、糖尿病は予備軍患者を含め、約2200万人に及ぶという。この日本列島に5.5人に1人の割合でひしめいていて、まさに“糖尿列島”。他人事でないのがこの病気である。

 糖尿病は血管を痛めつけるのであらゆる病気の引き金となる。病気のデパートの様相を呈する。以前は生命保険に入れなかった。糖尿病患者が増えれば、それだけ国民の医療費もかさむ。
 「糖」とつきながら、少しも甘い話ではないのが糖尿病である。

 「1日6000歩を心がけている」
 知人は歩数計を離せない毎日である。
 1万歩のウオーキングが理想という。おおむね10分1000歩だから、1万歩だと1時間40分歩く勘定になる。

 「それと、料理番組やグルメ番組は見ないことにしている。見るとつい食べたくなってしまうから」
 我慢を強いられるのがこの病気のようだ。
 料理番組やグルメ番組の共通項は贅沢食。美味くて、見栄えがよくて、栄養豊富。しかも、量はてんこ盛り。糖尿病患者には敵である。

 知人が歩きながら唱えている言葉がある。
 「粗食、だ」
 贅沢食は敵だから粗食になる。
 ソショク、ソショクとつぶやきながら歩く60過ぎの男。自業自得、贅沢生活のツケとはいえ、一抹の哀れさがただよう。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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