自己肯定感に悩む人を多く生む現在が世知辛い訳 時代の要請というよりゲームの初期設定のように

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心理学者のエレイン・N・アーロンは、最近上梓した自己肯定感に関する著書の中で、愛や利他主義を望む「つながり(リンキング=linking)」と、社会的地位や権力を求める「ランクづけ/格付け(ランキング=ranking)」のバランスが自尊心に大きく関わっていることを論証した。

「つながりを築くことで、自分も相手も気持ちよく過ごせる。ランクづけを主とした人間関係は、自分の価値を脅かし、幸せを遠ざける傾向がある」という。そして「大切な人間関係については、必ずリンキングの時間をつくること。過小評価されている自己にとって、それがどれだけ強力で、豊かな癒やし効果をもたらすかは強調してもしきれない」と述べている(『自分を愛せるようになる自己肯定感の教科書』片桐恵理子訳、CCCメディアハウス)。

これは言ってみれば、わたしたちのゲノムの特性に働きかける戦略だ。

「自分には居場所がある」という感覚

例えば、心理学者のケリー・マクゴニガルは、22歳でグループエクササイズの講師になれたことについて「私にとってどれほど幸運なことだったか」と語った。「レッスンの生徒たちほど私を慕ってくれ、仲良くなった人たちはいない」と言い、「自分には居場所があるという感覚は、私の私生活のあらゆる面に影響をおよぼし、社交不安が緩和され、ストレスが強いときに孤立しがちな傾向も抑えられた」と振り返っている。

リーダーのもとで人びとが動きを合わせると、仲間同士の信頼感が醸成される。こうしたシンクロニー(同調)による絆がもたらす恩恵をつねに受けるのは、ほかならぬインストラクター自身なのだ。スタジオの全員がインストラクターの姿を見て、その動きをまねる。つまり私たちの生徒たちも、何時間も私の動きをまねしてきたことによって、「この人は信頼できる」と体で感じたのだ。
このような信頼感は、ある意味、労せずして得たものだ。(『スタンフォード式人生を変える運動の科学』 神崎朗子訳、大和書房)

このエピソードは、さまざまな含蓄に富んでいる。

自己肯定感の基礎となる社会的信頼の上昇というものが、集団への指導的立場、しかも身体同調性を伴った活動からもたらされたということは、マクゴニガルが追記したように運次第という側面は否めないが、似たような役回りを模索することや、身体同調の効用をルーティンに組み込むといった応用も導かれる。

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