有力地銀の解任劇が示す「改革推進」の難しさ 山口FGの元会長兼CEOは土壇場で辞任を決めた

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解任のきっかけは、消費者金融大手のアイフルと提携して設立しようとしていた個人向け融資を主柱とする「新銀行構想」だった。吉村氏はこのために、コンサルティング会社を重用。オリバーワイマングループの前日本代表である富樫直記氏やその親族などを新銀行で採用する方針だった。しかも、報酬は吉村氏よりも高額に設定されていた。

この構想が取締役会の反発を生んだ。社外取締役が特に問題視したのが、コンサル会社への依存度の高さだ。内容を知った社外取締役からは構想を見直すべきという意見が相次いだが、吉村氏は執行権限を持っていることを盾に事を進めようとした。前出の国政氏は「社外取締役全員が『もう少し考えてほしい』と意見した際に、それを無視して進めるのは、CEOの資質に問題がある」と判断したという。

吉村氏には新銀行構想に強いこだわりがあった。11月の会見では「地方には格差社会が来ている。個人では年収が300万、400万以下の方の割合が増えている。そういった格差社会に地域経済が耐えうるようにするのは地方銀行の課題」と説明していた。

とはいえ、個人部門を中心とするリテール銀行で収益を上げるのは難しい。そのため、事業の対象はネット支店なども活用した全国展開をにらんでいた。しかし、山口FGとしてはこのやり方が、「地域価値向上会社」を目指すという方針とそぐわないという。

改革を急ぎすぎた

吉村氏からすると新銀行はあくまで地域のための構想で「そうした説明をする前に、(経営トップの)権限逸脱などの話になってしまった」(吉村氏)。結果的にどちらが正しかったのかは、誰にもわからない。1つ言えることは、ガバナンスが機能した結果、新たなビジネスの種が消えたことだ。

吉村氏は会見で、「改革を後押しする攻めのガバナンスを期待していたが、リスクを取らせない動きが強かったのは残念」と振り返った。また、ほかの取締役から反発を生んだ原因については「銀行の経営について改革を急ぎすぎた。改革の振れ幅と同じくらいの丁寧さが必要だった」と、反省の弁を述べている。

低金利が続き、従来のビジネスが先細る地方銀行では、新規ビジネスへの参入などの改革は必須だ。山口FGは早くからさまざまな改革に取り組み、地銀の中でも目立った存在だった。今後、他の地銀でも同様の動きが増えてくるだろう。

コンサルティング事業や地域商社など、これまでとまったく違うビジネスに飛び込むことを考えれば、トップにはある種の“強引さ”も必要だ。一方、保守的な企業文化といわれる地銀では改革に反対する声も出やすい。

そうした中、社外取締役という外部の目も入れたうえで、地銀がスピード感のある改革をどう進めるべきなのか。今回の解任騒動はその難しさを示したともいえる。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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