「楽して儲けるのは悪」と思い込んでいる人の盲点 苦労の少ない成功は、物語になりづらいだけ

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もしも人の脳が、難しいことを好むようにできていたら、種の生存は難しかっただろう。

「どうすればもっとも困難に食べ物を手に入れられるか?」と考えていたら、十分な食べ物を手に入れることはできない。「いちばん難しいやり方で家をつくろう」と考えていたら、家が完成する前に厳しい自然にやられてしまう。

もっとも少ない努力で成果を出そうとする傾向が、ヒトという種の生存を可能にしてきたのだ。

こうした自然の傾向にあらがうのをやめて、それを強みに変えてみたらどうだろう?

「困難な仕事をなんとしてもやり遂げてみせるぞ」と意気込む代わりに、「どうやったらこの仕事がもっと楽になるか?」と考えてみるのだ。

頑張らないことを選ぶのは、居心地が悪いかもしれない。手抜きしているようで、気まずく感じるかもしれない。全力で頑張ることに慣れすぎているからだ。

頑張ることがよいことだという価値観は、無意識のレベルで私たちの心に刷り込まれている。楽をするのが後ろめたく感じるほどに、努力の価値は過大評価されている。

頑張りすぎは失敗のもと

コンサルタントのキャリアが軌道に乗ろうとしていた頃、私はある重要なクライアントから、リーダーシップに関するプレゼンテーションを3つやってほしいと頼まれた。

プレゼンが全部うまくいけば、来年以降の契約は確実だという。なんとしてもプレゼンを成功させて、契約を手に入れたかった。すぐにプレゼン資料を用意し、先方の承認を取りつけた。

最初のプレゼンテーションの前日、スライドを見直していた私は、内容に手を加えたくなった。すでに完成はしていたのだが、もっといいものができる気がしたのだ。

私は自分のアイデアに夢中だった。顧客をあっと言わせようと、一から資料をつくり直した。徹夜でスライドを修正し、配布資料をつくり直し、シナリオを書き換えた。もちろん、詳しく検証する暇はなかった。

ひどい寝不足のまま、顧客のオフィスに向かった。ぐったりと疲れきっていた。頭から煙が出そうだった。

次ページプレゼンの結果は…
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