テロ撲滅か機密保持か、SWIFT開示の波紋

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 ネットワーク上を走るメッセージ量は、国際金融取引、貿易量の拡大に伴って増え続けている。1日平均のメッセージ送信量は1000万件を軽く超えており、「クロスボーダーの送金メッセージの分野では、ほぼSWIFTの独占状態と言っていい」と、大手邦銀の国際部門担当者は説明する。地下銀行などの活用によらず、国境を越える送金を正規のルートで行うかぎり、SWIFT上に情報が走っていることになる。

発祥の地である欧州では、民間金融機関のみならず各国の中央銀行も加盟。さらに近年では、中国などアジア諸国の中央銀行の加盟も相次いでいる。「経済力のある国で中央銀行が加盟していないのは米国と日本くらい」(同)という状況なのだ。

この巨大な金融情報ネットワークの上を流れる送金データを活用・分析すれば、テロ組織の動きを資金面から捕捉することができる--。01年にニューヨークで発生した米同時多発テロ以後、テロ撲滅の意識を一段と高めた米国政府が、SWIFTの送信データをテロ資金根絶の一環として活用したいと願い出たのは当然の成り行きだった。

それから数えれば9年越し。今回の欧州委員会の決定までには、多くの紆余曲折があった。

問われる情報の機密性 日本も無関係ではない

06年6月にニューヨーク・タイムズ紙は、SWIFTが米国財務省の求めに応じて、ネットワーク上の送信情報を提供していたことをスッパ抜いた。これに対しSWIFTとジョン・スノー米国財務長官(当時)は、その事実を認めたものの、ニューヨーク・タイムズ紙に厳重抗議。その4カ月後、同紙は「記事は掲載されるべきではなかった」という謝罪記事を掲載している。

しかし、それで一件落着とはならなかった。この出来事を契機としてSWIFTの本拠地である欧州は、情報ネットワークがのぞき見されることへの反発、警戒感を高めていた。情報ネットワークは機密保持が信条である以上、目的が何であれSWIFTはそれを守れなかったことになる。本来であれば、この事件はネットワークそのものの信任が低下するリスクがあった。米国政府は対テロに目的を限定して情報を利用するとの姿勢を示したが、欧州の反発が収まることはなかった。

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