「ヒグマ駆除で銃の使用禁止」にハンター怒りの声 裁判中に被害が相次ぎ、死者は10人を超える

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裁判の被告となった公安委は、銃を取り上げた理由を「建物のほうに向かって撃ったため」としていた。ところがこれはいわゆる“後づけ”で、当時の砂川署が捜査を始めた理由とは異なっている。

不意の銃所持許可取り消しに異を唱え続け、判決公判に臨む池上治男さん(左から2人目)=12月17日午前、札幌地方裁判所前

同署は当初「池上さんがクマを撃った銃弾が跳弾してもう1人のハンターの銃を破損した」なる容疑で調べにあたっていたのだ。駆除行為から捜査開始まで2カ月ほどの間が空いているのは、銃を壊されたという「もう1人のハンター」(共猟者)が突然、その時期に「事件」を告発したことによる。

事件を裏付ける証拠はなく、記録もない

この跳弾説は、これまで事件に関心を寄せる一部関係者の間などで、まことしやかに語られてきた。だがそれを裏づける証拠は存在せず、破損したという銃は警察に保管されていない。クマに致命傷を負わせた弾丸には当然ながら体液や体毛などの痕跡が残るはずだが、その弾丸で破損したという銃からそれらが検出された記録はない。

そもそも銃の被害が調べられた形跡がなく、跳弾したとされる銃弾も現場から発見されていない。何よりも、告発を受けた警察自身がこの容疑での立件を早々に諦めている。筆者は2020年8月、告発者(共猟者)本人と直接やりとりする機会があり、次のような証言を得た。

「警察には、『あなたの件ではやらない(捜査しない)』と言われました。『時間かかるし、タマ見つからないから』って」

現場には高さ8mの土手が立つが、警察の捜査ではこの存在が顧みられなかった

この時点で事実の解明を放棄した警察は、突如として「建物に向かって撃った」なる新説を持ち出し、池上さんからなんとしても銃を奪う方針に切り替えたようだ。各地のハンターが注目する行政訴訟は、その「建物」説を鵜呑みにした公安委が所持許可取り消しを決めた結果、当事者が提起せざるをえなくなったものだった。

ただ、警察の新たな主張は客観的に見ても無理があり過ぎた。池上さんがヒグマを撃った現場に高さ8メートルのバックストップがあったのは、すでに述べた通り。銃口が向けられたのはその土手であり、決して「建物」ではない。

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