ほとんどの日本人が知らない金融危機の裏側 不安定な信用システムとの正しいつきあい方

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これを避けるため、中央銀行の大きな役割は、他にだれもお金を貸さなくなった時点で最後に頼れる貸し手となることだ。中央銀行は、(一応)お金を刷れる立場だ。だからいくらでもお金を貸せる。

中央銀行から(金利は高いが)必ず融資してもらえるから、銀行システム全体が破綻することはない。そしてみんながそれを承知していれば、多少の金融不安が起きても取り付け騒ぎにならず、そもそも金融危機は起きない─―これがバジョットの示した、中央銀行の役割だった。

メーリング『21世紀のロンバード街』は、このバジョットを21世紀にアップデートしたものだ。現代の金融の世界では、銀行の果たす役割はかつてほど大きくない。

2007、2009年のリーマンショック/世界金融危機は、シャドーバンクが引き起こした危機だと言われたのをご記憶だろう。通常の銀行ではないけれど、銀行と似た機能を果たす機関だ。だからいまや金融危機が起きても、バジョット的な仕組みだけでは不十分だ。銀行だけ救っても、世界経済は救いきれない。

ではどうすればいいのか?

「最後のディーラー」としての中央銀行

一つの答えは、そういうけしからんシャドーバンクなんざぶっ潰せ、というものだった。シャドーバンクなんて、銀行や金融部門を守るための各種規制や監督を逃れる脱法手口なんだから、叩き潰して古き良き銀行だけの時代に戻ろう、という。なに、規制逃れの仕組みなんだから、規制かけたらなくなるでしょ? あとは中央銀行は昔どおり、「最後の貸し手」をしていればいい。金融危機後には、その手の物言いがたくさん出回った。

メーリングは、それは不可能だと言う。シャドーバンクは単なる規制逃れではない。それは間接金融から直接金融への流れの一部として必然的に登場したものだ。だからそれがあっさり消えることもない。中央銀行はこれから、シャドーバンクも含めた形で金融危機に対応する方法を考案しなければならない。そして、世界金融危機でアメリカの連邦準備制度(FRB)はまさにそれをやった。

本書は、その活動を中央銀行の思想の歴史に位置づけ、そしてそこから、中央銀行の新しい役割を提唱する。それが「最後のディーラー」「頼みの綱のディーラー」だ。

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