BBCが目指す「不偏不党」とは何か 国際ニュースメディアが描く未来像

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BBCの新報道センター

――ネットやソーシャルメディアの普及で、無色透明な、中立な報道ではなく、一方の見方に寄ってもいいからニュースの作り手の思いがはっきりと伝わるような報道が好まれるようになっているのではないか。

そういう見方にも一理ある。視聴者は自分の好きな報道番組を見るのだし、選択肢は広いほうがいい。しかし、正確な、議論の土台となるニュース、つまり報道機関の所有者や特定のジャーナリストの見方によって捻じ曲げられていないニュースが報道されていることは非常に重要だと思う。

――英公共放送「チャンネル4」の司会者ジョン・スノー氏は、ガザを訪問後、住民がイスラエル軍によっていかに攻撃を受けているかを切々と語った動画を局の公式ウェブサイトやユーチューブに掲載した。心の琴線に触れる、情熱のこもった動画だった。

BBCの記者はスノー氏のようなことはできない。自分の個人的な意見をニュースで表現することが許されていないからだ。しかし、ガザの状況がいかにひどいものか、爆撃によってどんな被害が出ているかを語ることはできる。BBCの特派員の個人の見方ではなく、現地の具体的な出来事を通してリポートに息を吹き込んでいる。こういう形で迫力ある報道が可能だ。視聴者にどう考えるべきかを説教したりはしない。

英政府を批判することもある

――権力者から報道に圧力がかかることはないのか。どう対応しているか。

世界中でBBCの報道に影響を及ぼそうとする企業や政府は無数にある。対処が難しいが、まず相手の言うことに耳を傾ける。果たして指摘に正当性があるかどうかを確かめる。こちらが間違っていた部分があるなら改める。しかし、こちらの報道が正しいと思った場合は、BBCは強くなる必要がある。権力の介入からは独立している必要がある。BBCはどこかの会社や政府のために存在しているのではなく、視聴者のために存在している。

権力者を批判するのは正確に報道をしたいからだ。正確に事実を伝えた結果、例えば英政府を批判することになるとしたら、批判するしかない。

後編は「BBCにツイッターをやらない記者はいらない

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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