BBCが目指す「不偏不党」とは何か 国際ニュースメディアが描く未来像

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――中東のパレスチナ暫定自治区ガザ地区や、イラク、シリア、そして欧州ではウクライナなど紛争地に記者を派遣するときに安全性をどのように確保しているか。

現在、もっとも頭を悩めているのがこの問題だ。今朝も仲間と安全性の問題について議論をしたばかりだ。

安全性の確保には予防と記者教育だ。紛争地での取材について研修を受けさせ、安全性に留意した移動車両を調達する。身を守るための防御機材を持っていかせる。取材陣には警備アドバイザーをつけて送るようにしている。

実際の取材では心理的な負担も含めて問題があれば相談できる時間を持たせるようにしており、必要な場合はカウンセリングも準備している。

シリアやイラクなどの特定の紛争地では取材に行かせるのが不可能に近くなった場所もある。

なぜ「処刑」の映像を報じなかったのか

Peter Horrocks●1959年生まれ。ケンブリッジ大学卒業後、BBCに研修生として就職。報道畑での経験を積み、老舗のニュース解説番組「ニューズナイト」の編集長(1994年)、調査報道番組「パノラマ」の編集長(1997年)を歴任。BBCマルチメディア編集室の統括者職(2007年)を経て、2010年3月、BBCワールド・サービス・グループのトップ(ディレクター)に就任。ワールド・サービス・グループには国際ラジオ放送の「BBCワールド・サービス」、国際テレビ放送「BBCワールド・ニュース」、BBCサイトの国際版「BBC.com」、世界中の報道をモニターする「BBCモニタリング・サービス」などの業務が入る。グループ全体で勤務するジャーナリストは2500人を超え、グローバル・オーディエンスは週に2億6500万人

――8月末、イスラム国の人質となっていた米国人の写真ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏が首を切られて処刑される場面が入った残酷な動画が公開された。フォーリー氏はフリーランスのジャーナリストだった。大きな組織の後ろ盾がないフリーランスの記者が危険な場所の取材に行かされているという批判がある。BBCの場合はどうか。

フリーの人材を使うことはある。しかし、BBCのジャーナリスト同様に安全性を確保して取材にあたらせている。あきらかに危険を冒して撮影したと思われるフィルムを買わないこともある。きちとんとした保護体勢や保険をかけていない状態で紛争地に取材に行くことを奨励したくないからだ。BBCの記者と同様に、事前に紛争地での取材についての研修を受け、必要な保険を掛けている人でなければ、雇用しない。

――「処刑」の動画をBBCは放送しなかったが。

数枚のスチル写真を使っただけだ。遺族の心情に配慮したのと、イスラム国側のプロパガンダに加担したくないと判断した。ネットで探せば動画を見ることはできるだろうが、BBCとしては注意深くありたかった。

――ウクライナをはじめとする国際紛争ではどの立場に立つかで報道の内容が変わってくる。BBCはどうやって偏りのない報道を実現しているのか。

研修をしたり、編集会議や同僚との会話の中で報道に偏向がないか、複数の視点を提供しているかどうかを問いかけるようにしている。

BBCは客観的、公平に報道をするように務めているが、必ず「偏向している」と言ってくる人がいる。多チャンネル、ネット時代になって、自分の信じている説を補強するような情報ばかりを集めることもできる。一つの凝り固まった見方に固執する人が増えているのかもしれない。偏りがなく、正確な報道を達成するのは簡単ではない。間違えることもある。それでも、できうる限り偏向がない報道の実行に務めている。

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