「沖縄の民意」は、なぜ無視され続けるのか 知事選に向けヒートアップする本土・沖縄関係

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実は数年前、米外交官からも似たような話を聞いた。筆者が沖縄基地問題の解決策として持論にしている「海兵隊花道撤退論」を説明したときだった。

沖縄は海兵隊の各種部隊と長崎県佐世保配備の艦船の「落ち合い場所」となっている。海兵隊はアジア太平洋全域を活動エリアとしているため、「落ち合い場所」を沖縄に限定する必然性はない。日本政府が落ち合い場所を本土に移すか、あるいは海外に移転させる諸条件を整備してさえあげれば、海兵隊は現在の仕事を続けながら沖縄から移転することは十分に可能である。諸条件を整備してあげるのは政治の仕事であり、軍事ではない。

「日本側には建設的な提案がない」

米外交官は合理的だと歓迎してくれた。筆者は「なぜフレッシュな発想が日米間に生まれないのか」と問うた。米外交官は「安保政策で日本側の議論はゼロか100かで、建設的な提案がない。あと30年ほど待たなければならないでしょう」と言った。

近著「虚像の抑止力」(旬報社、2014年8月)でジョージワシントン大学のマイク・モチヅキ教授が沖縄基地問題をめぐる日本の安保論議を検証している。国際政治で著名な森本敏元防衛大臣、川上高司拓殖大教授、元外交官の岡本行夫氏、元陸将の山口昇氏の論文を取り上げ、沖縄基地の主要部隊である海兵隊分析の弱さを指摘している。政府の沖縄基地政策をサポートする安保専門家の論拠は実にあいまいであることがよくわかる検証となっている。海兵隊を含めて何でもありがたがって米国の意向に背かないようにするメンタリティーは、実は米政府に対する不信感の裏返しでもある。モチヅキ教授はそう分析している。筆者も同著で海兵隊花道撤退論を寄稿した。

以上を並べてみると、沖縄の民意は繰り返し反対を明示するが、日本の政治はそれを受け止めきれない。在沖米軍基地の7割を占める海兵隊は、実は沖縄に駐留する絶対的理由がないにもかかわらず、政府も安保専門家もこぞって「虚構の抑止力」を作り上げる。安保問題で日本外交力はお寒いばかりで、日本は沖縄を差し出すしか選択肢を見出せない。沖縄の一部保守政治はそれに同化する事大主義に陥る。

もはや、それがみえみえだから地元の反対は強まるばかりだ。米政府が米軍受入国に求める政治的持続可能性はもはや画餅となる。新たな発想が必要なのだが、その知恵がない。どうも日本はかつて同じような思考停止で道を踏み外したが、その癖は直っていないようだ。

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