商船三井流「ばくち経営」、新社長が挑む勝率上げ

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武藤社長の頭の中で、ばくちはリスクテイクを意味しているようだ。武藤社長は、「リスクを取らなければ株主が期待する利益を上げられない。海運業は資源需要など世界経済を先読みする力を磨いてリスクテイクするビジネス」と断言する。

スポット運航以外は長期契約(長契)での運航だ。同業他社は長契化を熱心に進めるが、「3年以上先の運賃を固定する長期契約にはインフレリスクがある。長契は必ずしも安定利益にはならない」と武藤社長は喝破する。大手海運では「収入は100%ドル建て、支払いは100カ国の各国通貨」(芦田会長)。支払い先は新興国が多く、新興国の高成長に伴う物価上昇で支払い負担が増す一方、収入を長期で固定すると、いずれ儲からなくなるリスクがある。

実際、商船三井も痛い目に遭っている。過去に長契を推進した木材チップ船のうち何隻かは船費上昇で、収支トントンまで収益力が落ちた。

さらに、海運バブルピークの08年央に発注した船の竣工も控える。商船三井はまだ軽症とはいえ、過去の判断ミスから選択の幅に制約を受けつつ、将来を見据えて船舶投資の規模やタイミングを考えなければならない。その構図自体は他社と変わらない。たとえばケープサイズ1隻だけだが、1日5万ドル近い運賃をもらわなければペイしない高船価の船が商船三井でも、これから出来てくる。そんな中、芦田時代に匹敵する1兆円の利益を積み上げられるか。最年少社長の悪戦苦闘が始まった。

■商船三井の業績予想、会社概要はこちら

 

 

(週刊東洋経済2010年7月31日号)

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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