米テスラモーターズが描く電気自動車革命 高級セダン「モデルS」の日本納車を開始

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創業から10年でテスラが黒字になったのは、13年の第1四半期(13年1月~3月)だけだ。年間では1度もない。ここ最近は販売関連の費用や、モデルXの開発費などがかさんでいる。「開発や投資を緩めればすぐにでも利益は出る。短中期的に利益が出なくても、値頃感のある車をしっかり仕上げていく」とマスクCEOは言う。

 世界の自動車メーカーに迫る時価総額

驚くことに、短期的な利益を重視する傾向の強い米国の株式市場も、テスラの戦略を支持しているようだ。なぜなら販売台数は数万台レベルと極めて少ないのにもかかわらず、株式時価総額は3兆5000億円という驚異的な数字だからだ。その規模は、自動車業界でいえば100万台以上を販売している伊フィアットや仏ルノーよりも大きい。販売台数がさらに多い米ゼネラル・モーターズ(5兆3000億円)やフォード(6兆5000億円)の水準にも近づいている。マスクCEOが、自らの描く未来を株主などのステークホルダーと共有するためのコミュニケーションに長けている証左なのかもしれない。

「私のことが嫌いなら株は売ってしまえばいい。テスラがイノベーティブでなくなったと感じているのなら、クビにしてくれて構わない」。8日の会見でもこう強気に言い放ったが、これは自信の裏返しでもある。

もっとも、「クビ」にしようなどと思う株主はいないだろう。今や、彼自身が電気自動車の“伝道者”であり、すべてを切り盛りしているからだ。むしろ彼がCEOを退くことは最大のリスクともいえる。いずれにしても、EVの普及にあらゆる手段を講じる稀代の起業家マスクとテスラの動向には今後も目が離せない。

(撮影:尾形文繁)

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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