クールじゃない!「サーモンだけ回転寿司」 “クールジャパン”が大変なことに…【後編】

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日本のプロダクトは価格面から考えると、富裕層にアプローチせざるをえないのは明らかです。しかし富裕層の消費行動にプロダクトがどのように貢献できるのかを明確にしなければ売れません。実際の海外展開を通して、富裕層の生活スタイルを理解し、的確なターゲットにアプローチすることを定め、そしてブランドの統一感を作っていくことが重要なのです。

ビジネスの仕方をクールにしたい

「クールジャパン」をビジネスにしていく、そこにはいろいろな課題があることを見てきましたが、太田さんが最も力を入れて言っていたことは、日本のビジネスの仕方でした。

「前職で海外と交渉するときに、絶対に妥協しないという気持ちでやってきました。日本のプロダクトを見てきて、せっかくいいモノなのに、なぜすぐ日本はおまけしちゃうの?と悔しい思いをしてきました。海外ブランドに何でこんなに買いたたかれてしまうのだろう? 日本人は何て人がいいんだろうと。だから、英語下手でも交渉下手でもいいから、つまらないおまけしないでください。しどろもどろでいいから、胸を張ってやってほしいって、皆さんに言っているのです。

いちばん変えたいのは、海外とのビジネスの仕方です。おまけしてモノを売るのはクールじゃない。自分の仕事にプライドを持ち、クールなビジネスの仕方を作りたい。ちゃんと高い理由を説明できる、それがクールな仕事の仕方です。モノがクールなだけじゃない、姿勢がクール。熱く語って、対等に仕事ができること、それがクールです」

太田さんの話を聞いて私が感じたことは、「クールジャパン」を官民ファンドで支援していくことの是非は別として、今の日本のプロダクトが海外展開するうえで抱えている課題に対して、クールジャパン機構は正面から取り組んでいくだろうということでした。

世界の多様性は、おのおのの国や地域が持っている文化が伝播していくことで作られていくものですが、その中でビジネスはその多様性の最も大きな担い手です。にもかかわらず、日本は「クールジャパン」という文化性を帯びたムーブメントに対して、ビジネスという健全な方法でアプローチできていないと言ってよいでしょう。こうした現状をクールジャパン機構はどこまで変えられるのか。

クールジャパン機構の意義がその収益性だけでないことや、「クールジャパン」の文化的な価値貢献を計ることが難しいという面はありながらも、クールジャパン機構が実際にビジネスとしていくつの成功事例を作れるのか、その実績で皆さんに評価していただきたいと思います。

【お知らせ】
マザーハウスでは本連載のテーマである「モノにあふれた時代のモノ買い方、売り方」に合わせて、マザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。次回は9月24日(水)に「世界最大のコンセプトブランドが提案するお客様とのコミュニケーション」というテーマで、良品計画のWEB事業部長、奥谷孝司氏をお呼びして開催します。詳しくはこちらをご覧ください。
山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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