アップルウォッチが持つ意外と深い広がりの意味 目論むのは生活サービス全体のエコシステム覇権

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リリースされたのは2020年の12月14日。残念ながら日本でのサービス開始は未定であり、現時点ではアメリカ、オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、英国などでサービスが展開されています。料金は月額9.99ドル、または年額79.99ドル。端的にいえば、「Apple Fitness+」とはサブスクリプション方式のフィットネスサービスです。

こうしたサービスは日本ではまだ馴染みがないかもしれませんが、フィットネスバイクの製造・販売を行うとともにスタジオからエクササイズ番組を24時間ストリーミング配信するペロトンなど、海外ではすでにサブスクリプション方式のフィットネスサービスがヒットしています。コロナ禍でステイホームを強いられた2020年に急成長した産業の1つです。

これからのアップルが目指すもの

最後に、改めて認識すべきは、アップルのヘルスケアエコシステムも、アップルが展開する生活サービス全体のエコシステムの、ごく一部だということです。サービス重視へと舵を切ったアップルは、このエコシステムの拡充、充実をさらに推し進めていくことになるでしょう。ただし、「ものづくり」企業アップルのこと、サービスの拡充は、ハードの進化と同時並行で起こると考えるのが妥当です。

やがて5G時代に突入し、AR/VRが浸透、そして次なるMR(複合現実)が現実のものになりつつあり、マイクロソフトが「ミックストリアリティが第4のプラットフォームになる」というほど。これも、サービスのみの進化を語れるものではなく、ハードの進化とパラレルです。

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そこで思い出すのは2020年に発表されたiPhone12に「ライダー」というテクノロジーが搭載されたこと。ライダーとはもともと、自動運転車に不可欠とされる技術であり、レーザー光を用いたセンサーの一種。しかし、これにより3Dオブジェクトを現実世界に重ね合わせるARのアプリが開発されました。

私の予想では、デバイスの高機能化は、究極的にはアンビエントコンピューティングに近づいていきます。すなわち、スマホなどデバイスがなくてもサービスが受けられる世界。夢物語のような話に聞こえるかもしれませんが、「シンプル×ミニマム×ひとのため」を志向するアップルならばやりかねない。そう思えるのです。

前回記事:モデルナを甘く見る人が知らない驚くべき正体(12月7日配信)

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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