ギリシャの財政危機はEU破綻の序曲なのか--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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欧州は20世紀前半に2度の戦争で引き裂かれ、世界政治の中心的な地位を失ってしまった。だが世紀の後半には、先見性のある指導者が遺恨を乗り越え、欧州統合に向けた制度を築き始めた。もはや独仏が再び戦火を交えることは想像できない。EU(欧州連合)の発展によって、欧州の魅力とソフトパワーは大いに高まったのだ。しかし今、そうした歴史的な成果に疑問が投げかけられている。

今年5月、ギリシャの財政赤字管理能力と債務返済能力に対する、資本市場における信頼が崩れた。これに対応して欧州各国の政府と欧州中央銀行、IMF(国際通貨基金)は、金融不安を和らげるために総額7000億ユーロの緊急救済プログラムをまとめ上げた。

一連の介入は小康状態をもたらしたが、資本市場の不透明性は消えていない。ドイツのメルケル首相は、ユーロ相場の下落が続けば、「通貨制度が破綻するだけでなく、欧州も破綻し、欧州統合の理想も破綻する」と言明している。

欧州統合はすでに重大な制約に直面している。財政統合は遅々として進んでいない。各国のアイデンティティは、統合から60年経っているのに欧州共通のアイデンティティよりも強い。国家利益は過去と比べれば抑制されるようになっているが、依然として重要な要素だ。

EUが27カ国に拡大したことは、欧州の諸制度が独自の形で残り、強力な欧州連邦や単一国家をつくりだせないことを意味している。行政府と立法府の統合は遅れぎみだ。EU大統領や外交政策の責任者は任命されているが、外交・防衛政策は部分的な統合にとどまっている。

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