フィリピン大統領選で異色のコンビが有力に 2022年5月、独裁者と現職大統領の子どもが出馬

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サラ、ボンボン両氏はここにきて急速に関係を深めているが、元をたどればドゥテルテ氏が大統領に就任した2016年11月、故フェルディナンド・マルコス氏の遺体をマニラ首都圏の英雄墓地に埋葬することを認めたことがきっかけだった。これが両家の距離を一挙に縮めた。

戒厳令を敷いて反政府運動を弾圧するなど強権を振るった故マルコス氏に対して、過去の政権は一家の要望を拒んで英雄墓地への埋葬を認めてこなかったが、ドゥテルテ氏はフェルディナンド氏を「史上最高の大統領」と称え、戒厳令下の人権侵害の被害者らの反対を押し切って埋葬を認めた。その後、ボンボン氏や姉のアイミー・マルコス上院議員らは大統領やサラ氏との親交を深めていった。

身の安全を考えたドゥテルテ大統領

ボンボン氏が大統領になれば、「麻薬戦争」にからむドゥテルテ氏周辺への刑事責任追及はせず、ICCへの協力もしないとの合意があると考えるのが自然だ。サラ氏が副大統領、ドゥテルテ氏が上院議員に座れば、脇をがっちり固める体制ができる。ボンボン氏の次にサラ氏が大統領を継げば、都合12年、ドゥテルテ氏は安泰である。

シナリオどおりシャンシャンとコトを進めれば、さすがに「権力のたらいまわし」「家族による権力の独占」との批判が出るだろう。それをかわすためにあえて父娘の意思決定が独立しているように見せかけたり、別の政党に属したりする「迷彩」を施したのではなかろうか。ボンボン氏に対する辛辣な論評も一時の感情なのか、計算ずくなのか見極めが必要だ。

大統領選でボンボン氏に対抗するのはレニー・ロブレド副大統領やボクシングのヒーロー、マニー・パッキャオ上院議員、イスコ・モレノ・マニラ市長らだが、民間調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が10月20~23日に行った調査では、ボンボン氏が47%の支持を集め、ロブレド氏(18%)、モレノ氏(13%)、パッキャオ氏(9%)以下を引き離して優位に立っている。ただ現在の調査結果がそのままゴールにつながるかは見通せない。前回選挙時、ドゥテルテ氏も選挙戦中盤まではSWS調査で4位だった。

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