コロナ禍初、欧州「鉄道見本市」はどう変わったか 入場に「ワクチン証明書」、目玉の新車展示なし

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ただ、現在各社が競って開発を進める新技術に関する展示はあった。アルストムは、実物車両の展示こそなかったものの、新型連接車両「コラディア・ストリーム」をベースにした水素燃料車両を新たに発表した。

アルストムが提案するコラディア・ストリームベースの新型水素燃料車両の模型。中央の短い車体に水素燃料タンクなどを集約し、軽量化を図っている。実車は2023年に登場する予定だ(筆者撮影)

水素燃料車両は、環境意識が高まる中で本格実用化へ向け各メーカーが開発を急いでいる。アルストムも2016年の段階で他社に先駆けて発表しているが、本格的な実用化へはまだまだ改良が必要だった。

アルストムのブース。吸収合併した元ボンバルディア製品の展示や紹介もあった(筆者撮影)

中でも一番のネックとなっているのが車体重量だ。水素燃料は、軽油など通常の化石燃料と比較してタンクの容量や大きさが増すため、車体重量も増加する。すると橋脚などが弱いローカル線では、車輪の各軸に掛かる重量(軸重)が制限を超えてしまい、入線できなくなってしまう。非電化ローカル線にこそ必要とされている水素燃料車両が重量の関係で導入できなければ本末転倒となってしまうため、軽量化は重要な課題の一つとされていた。

新型のコラディア・ストリームでは、最初に開発した「コラディアiLint」がボギー車であったのに対し、連接構造を採用し重量を分散化させ、車体屋根上に設置されていた水素燃料タンクをタンクユニット(車体)として独立させることで、大幅な軽量化に成功したと説明している。

世界中から参加する見本市はどうなる?

この新型車両は、2023年に最初のテスト車両が姿を現し、試験走行を行って2024年から営業運転を開始する予定とのことで、営業開始まで3年間を開発期間に充てる。順調に開発が進めば、最初は地元の私鉄FerrovieNord(北鉄道)の非電化区間ブレシア―エドロ間約100kmに14編成が投入され、同数のディーゼル車両を置き換える予定だ。

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コロナ禍が完全に収まらない中に開催された見本市は、出展社数や展示内容、来場客数も例年と比較すれば少なく、いささか元気がない感じは否めなかったが、このコロナ禍にもきちんと開催できることを証明できたといえる。

ただ、今回は感染症対策の一環として、デジタル接種/陰性証明書の提示が絶対条件となっていた。EU圏内は共通フォーマットが用意されているので問題ないとして、世界中から人が集まるイベントにおいて、混乱なく対応することが可能なのか。

来年2022年はイノトランスの開催年だ。はたして無事に開催され、例年通りの賑わいを見せることができるのか、業界関係者の注目が集まるところだろう。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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