尖閣有事に水陸両用車「AAV7」は役に立たない 防衛省概算要求に隠された大問題<前編>

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グローバル・ホークとオスプレイの調査費用については、本年度の予算に計上されている。概算要求までに「候補を絞る」のであれば、4月に予算が執行されたあと、財務省と折衝し、8月末に概算要求を発表するのであれば5月まで、遅くとも6月までには決定しなくはならない。わずか2~3カ月でそのような調査ができるはずもない。

本当に評価試験を行ったのか

AAV7は発注された6輛のうち、実質2輛しか評価試験に使用されていない(提供:米海軍)

中でも、特にひどいのが水陸両用車であるAAV7だ。AAV7は平成25(2013)年度予算で、評価用としてまずAPC(装甲兵員輸送車)型4輌(米海兵隊の中古)が要求された。ついで翌年度、指揮通信型、回収車型(戦場で破損したりした装甲車を回収するための車両)各1輌が要求されている。こちらは新造であり、納入予定は平成28(2016)年度だ。常識的に考えれば、陸幕はAPC型と指揮通信型、回収型を合わせて試験的に運用してみて採用するか、否かを決定すると考えるだろう。

2013年4月15日の国会の予算委員会第一分科会では、防衛省の徳地秀士防衛政策局長は以下のように答弁している。

「平成27(2015)年度までに取得をいたしまして、それから1、2年かけてこれにつきまして性能を確認する、あるいは運用の検証を行う。これによりまして、水陸両用車を導入すべきかどうか、それから実際にどの機種にするかということについて検討をするということになっております」

そうであれば評価作業が完了するのは2016~17年になる。当然AAV7が装備として予算が要求されるのは、早くても2017年度ということになる。

ところが筆者が2013年の陸幕長会見で「陸幕は予定を早めて本年末までに結論を出すのではないか」と質問したところ、それを認めた。

つまり評価用に発注された指揮通信型、回収車型は、実際には十分に検証されているわけではないのだ。逆に言えば、使わないと分かっていて陸幕は予算を要求したのだ。

APC型は4輛が2014年2月に納入されたが、うち2輛は日本の道交法、船舶法への適合及び自衛隊仕様にするため改修中であり、年末まで使用できない。残りの2輛中1輛が富士学校、もう1輛が土浦の武器学校で試験されている。つまり6輛中2輛が試験されているに過ぎない。しかも実際に使用が想定されている南西諸島での試験が実施される様子はない。

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