日立、クラウド事業でアマゾンと組んだ理由 勝ち残るため、巨艦・日立なりの計算

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クラウド事業を説明する日立の情報・通信システム社 システム&サービス部門CEOの塩塚啓一氏

日立の狙いは、自らが決して得意としていない、"早く、安く"導入できるクラウドをアマゾンに補完してもらうことだ。いくら自社のクラウドが安定していると喧伝しても、自前主義をとっていれば、多様化する顧客企業のニーズを取りこぼしてしまう。全ての顧客が金融機関のような絶対的な信頼性を求めているわけではないのだ。

一方で、リスクもある。日立にITを依存しているような得意客がAWSを“味見”することで、「安いAWSでも問題なく使える」と思い、主要なクラウドをすべてAWSへ移行してしまうケースも考えられる。塩塚氏は「(それを)恐れていないと言えば嘘になる」と漏らす。クラウドが世に出始めたばかりのころは、日立の得意客は、実績のある日立に引き続き任せようというのが自然な動きだった。しかし、近年では日本でのサービス体制を充実させているアマゾンの魅力も高まっており、日本の大企業の間でもAWSを利用するケースは増えている。

クラウド関連の国内市場規模は、2012年度で約1兆5000億円、2015年度で約2兆円と推定されている。日立の売上高は前述の通り、2013年度で2600億円だが、競合他社では富士通が1870億円、NECは1200億円と、国内勢では目下先頭を走っている。日立はリスクを恐れず、アマゾンなどのメガクラウドと手を組むことで、市場の成長よりもさらに高い伸びを確保。いずれは国内断トツを狙うもくろみだ。

そもそもメガクラウドの力を借りたところで、日立が強みとするシステムの設計開発や保守などの業務を失うわけではない。顧客企業のことを考えれば、当然の決断をした、といえるだろう。

富田 頌子 東洋経済 記者

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とみた しょうこ / Shoko Tomita

銀行を経て2014年東洋経済新報社入社。電機・家電量販店業界の担当記者や『週刊東洋経済』編集部を経験した後、「東洋経済オンライン」編集部へ。

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