親日議員まで"TPP日本外し"で脅すワケ 豚肉の関税をすべて撤廃するように要求

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もっとも、日本(やカナダ)を除外するというのは空虚な脅しだ。賛成するTPP交渉参加国がニュージーランド以外にないことに、議員たちも十分気づいているからだ。ワシントンに本拠を置く、あるビジネス関係者は「日本政府に圧力をかけるための強硬発言にすぎない。日本も含めてTPPを結ぶか、まったくTPPなしかのどちらかだ」と語った。

だからより危険なのは、米議会でTPP批准に十分な票が確保できないことだ。TPP批准には共和党議員の過半数が確実に必要とされる。賛成に回る民主党議員が一握りだからだ。2013年11月、下院の民主党議員205人のほぼ4分の3に相当する151人が、TPP批准の前に必要なTPA(大統領貿易促進権限)に反対する書簡に署名した。日本を除外することに言及した7月の書簡に署名した共和党議員107人は、下院の全共和党議員234人の過半数に11人足りない。

受け入れ可能な最低ラインは?

共和党議員はTPPに「イエス」と言うために、オバマ大統領に喝を入れると同時に、米交渉担当者たちが優位に立つことを狙っている。共和党が強硬な姿勢を取れば、米交渉チームは日本の交渉担当者にもっと譲歩を迫ることができる。

TPP支持の共和党議員が受け入れ可能な最低ラインはどこか。米国の豚肉業界団体によれば、交渉開始時点で日本は586細目の関税を完全撤廃の対象から免除しようとしていた。米国が過去20年に調印した17のFTAで撤廃の対象から免除したのは計30細目にすぎない。

日本が牛肉、豚肉、乳製品、小麦、砂糖における関税をすべて撤廃すると本気で考えている者はいない。が、別なビジネス関係者は「仮にTPPが議会で審議されることになっても、100細目の日本の関税が依然として完全撤廃の対象から免除されていたら、批准されることはないだろう」と語った。

週刊東洋経済2014年9月6日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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