グローバリズムは、米国発のイデオロギー 『グローバリズムという病』の著者に聞く

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ひらかわ・かつみ●立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授。1950年生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業。77年アーバン・トランスレーション(現D2E2)を内田樹氏らと設立。その後、1999年米シリコンバレーにBusiness Cafe, Inc.を設立、2000年ビジネスカフェジャパン、2001年リナックスカフェを設立(撮影:尾形文繁)

「グローバリズムとは伸びしろの乏しくなった株式会社が世界に辺境を探し回る生き残りのイデオロギー」と言う。この病としか言いようのない行動の行き着く先は。

──株式会社の時代が終わりつつあるのですか。

株式は将来に対する投資だから、その投資のカネが増えていかないとわかっていれば誰も投資しない。投資家が株式に投資する必然性はなくなる。株式会社は投資したカネが将来増えて戻ることを暗黙の了解にしたシステムだから、長期停滞局面では存続しえなくなる。どうやら先進工業国はそういう段階に達した。

──株式会社には300年からの歴史があります。

通常の株式会社の源流は17世紀後半に考えられたシステム。歴史としてはそれほど長くない。資本と経営を分離することがポイントだった。発祥後スキャンダルの温床になって英国では100年ぐらい禁止される。それが、18世紀の産業革命の中で復活してくる。その後は隆盛をたどり、世界の経済を牽引していく。

株式会社にとって右肩上がりのトレンドは生命線だから、生き残るために必死になって右肩上がりのフロンティアを探す。それがグローバリズムであり、株式会社からの要請が実態なのだ。その時代も先進工業国の中では終わりつつあって、新しい形を模索していく必要が出始めている。これは10年や20年のスパンで変わるという目先の話ではない。200年かけて作り上げてきた今までの「株式会社の王国」が、どのように変容していくのか。少なくとも今までのようにはいかなくなった。

日本の株式会社は「権威主義家族」

──株式会社は地域によって形態が同じではありません。

株主主権やコーポレートガバナンスが普遍的なもののように語られているが、株式会社の形態は世界の中で多様になっている。日本における株式会社、ドイツあるいはライン川周辺における株式会社、パリ盆地における株式会社、米国の株式会社、英国の株式会社は、それぞれ違う。

なぜ違うか。株式会社という共同体を作るときにそれぞれが何かを模倣して作っていった。その模倣されたものはほとんどがその地域の伝統的な家族形態だった。日本の場合なら権威主義家族といわれるものだ。商家はほぼ家そのものであり、家の拡大版が株式会社だった。

株式会社は各地域でそれぞれにローカルな歴史があるから、英米型も世界でいえばほんの特殊な形態にすぎない。それが主流になっているのは、たまたま英米が世界のヘゲモニーを握っているからだ。だから、英米型が普遍的であり、グローバリズムに従わなければいけない、という考え方は間違いといえる。

──中国は?

中国の家族形態は外婚制共同体家族だ。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏が言っているように、自発的に社会主義化した国には外婚制共同体家族という共通の特徴がある。これらの国には、強い父権制、兄弟における平等性、大家族制、近親相姦へのタブーなどの共通点が見いだせる。大共同体になっても一人の強力な権威者がいる。それが毛沢東であったりヨシフ・スターリンであったりする。だから、会社形態もそれに近い。独裁的な権威者がまさに中国的な会社経営者、そういう残滓を今も残している。

株式会社は一概にはどういう形がいいとか悪いとかいえない。地域ごとに特色があって、そこには手本としてきた共同体の歴史がある。ところが、日本の場合はすべて否定した。権威主義的なことから導き出された終身雇用や年功序列、特に年功序列は日本の会社の大きな特徴だったが、1990年代にグローバル資本主義ではないとして壊した。ローカルな会社発展段階の中でそういうものがあったということにすぎないのだが。

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