英『ダウントン・アビー』世界中で人気の謎 英国貴族と使用人の格差は、現代の縮図か

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企画・製作総指揮・脚本を手掛けるジュリアン・フェローズは、彼自身が貴族の家系に属しており、男爵の爵位を持つ貴族院の議員でもある。ロバート・アルトマンの映画『ゴスフォード・パーク』(2001年)でアカデミー賞脚本賞を受賞した多彩な才能を持つフェローズだが、自身が体験し、よく知る世界だからこそ、ディテールまでリアルに描くことが可能となったのだろう。彼の大叔母をモデルにしたという先代の伯爵夫人バイオレットは、これぞ貴族!とも言うべきキャラクターで、大ベテランのオスカー女優マギー・スミスの堂々としながらも軽妙洒脱といった演技が本当にすばらしい。

マギー・スミス(中央)の演技も見どころ

1シーズンの話数を少なくして質を高めた

英国ドラマは『ダウントン・アビー』や冒頭で述べた『SHERLOCK/シャーロック』に代表されるように、質の高さがひとつのブランドだ。丁寧な作品作りを可能にしている理由のひとつには、1シーズンの話数が少ないことが挙げられる。アメリカと同じく、イギリスでも製作費の高騰が大きな悩みどころでもあるのだが、製作費は極力削らず、話数を減らし、無理に次のシーズンを早く送り出すことをせず、じっくりと時間をかけて納得のいくものを提供している。

これほど世界中で人気を誇る『ダウントン・アビー』でも、1年に1シーズン8話+クリスマススペシャルの計9話(シーズン1のみ7話)というペースを維持している。その代わり、何度も鑑賞に耐えうる質の高さを武器に、再放送はもとより国内のケーブル局や世界各国へのセールスを展開することが前提だ。

アメリカでもイギリスでも、2000年以降は数字だけでいえば、視聴者参加型のコンペティション番組『アメリカン・アイドル』のような、リアリティショーが高い視聴率を記録している。だが、結果がわかった後の再放送や録画視聴、DVDのセールスなどでは稼げないのが、リアリティショーの弱みでもある。そこで今一度、重要性を増しているのが、世界に通用する質の高いドラマ作りなのだ。

アメリカで近年、ドラマ界をリードするケーブル局は、英国式と同じで1シーズンが8~15話程度の短い話数のものが主流となっている。それにならう形で、地上波でも短い話数でリスクヘッジを行い、質を重視する傾向にある。今年5月に放送された『24-TWENTY FOUR - リブ・アナザー・デイ』(日本は2015年春、DVDリリース予定)は、ジャック・バウアーが約4年ぶりに復活したもの。リアルタイムで物語が進行するスタイルは同じで、海外ロケを大々的に敢行して製作費はかかっているが、全12話という形式をとっている。この傾向は、今後も増えていくだろう。

今 祥枝 映画・海外ドラマライター

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いま さちえ / Sachie Ima

東京女子大学文理学部卒。大学在学中、専門学校で映画製作の基礎を学び、卒業後は出版社で雑誌編集業務に携わる。28歳で映画・海外ドラマを専門とする現職に。『BAILAバイラ』で「今ドキ シネマ通」、『日経エンタテインメント!』で「海外ドラマはやめられない!」ほか、女性誌・情報誌・ウェブ等で連載中。著書に『海外ドラマ10年史』がある。

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