「おすそ分け」を始めた私が得た「思わぬ副産物」 物のやり取りがお互いの「空気」を変化させる

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……え? そ、そーなんですか?

混乱しつつも、とにかくこの機を逃してはならじと必死に頭を切り替え、「あ、そうですか! 実は大量のパンをいただいちゃって、すごく美味しいパンなのでおすそ分けしようと思って……」と言うと、「ほんと? 嬉しいなあ。じゃあ遠慮なく」とおっしゃるので、「よかった! じゃあ持ってきます!」と、くるりと踵を返して走って家まで戻り、直ちに紙袋いっぱいのパンを抱えて「ぜひ召し上がってください!」と勢いよくご主人の手に袋を押し付け、「いいの? 遠慮なくもらいます」という声を背に店を出る。

よし、作戦成功だ!

しかし改めて考えると、あたふたしていた私とは違い、ご主人はずっと冷静であった。過剰に驚いたり、クドクドとお礼を言うこともなかった。ってことは、たぶん私とは違って、そのような経験は初めてではなかったに違いない。ということはですよ、きっと他のお店でもそうなんじゃないだろうか? 地域の小売店にとって、顔見知りのお客さんに何かをもらうことは、案外普通に行われていることなのかもしれない。

ということで、次のターゲットは豆腐屋である。ご主人との立ち話で時々お酒の話題が出てくるのを思い出したのだ。きっとわが家のお酒も喜んで受け取ってもらえるんじゃないだろうか……?

さっそく翌朝、仕事場にしているカフェに行く途中でさりげなくお酒を持参することに。米屋の経験があるので余裕があった。油揚げを揚げているご主人に「おはようございます」と声をかけ、「これ、いただき物なんですけどよかったら!」と、酒瓶の入った箱を店先に置く。

するとご主人「え? いやー悪いねえ、そんな結構なものいただいちゃって……」とニヤリとして軽く頭を下げた。「いや一人じゃ飲みきれないんで助かります!」と言って、じゃあ、と自転車に乗り風のように去る私。

うん。いい感じではないか! やはり地域密着の小売店の方々にとって、モノのやり取りは特別なことでもなんでもないようである。

心がけたのは、感想を伺うこと

これで、私の取るべき道は決まった。

一箱のミカンをもらったとき。激安のまとめ売り八百屋で大量のシソをパック買いしたとき、クッキーやせんべいを一缶いただいたとき。近所の銭湯、酒屋、喫茶店などに行ったついでに「あの……○○お好きですかね?」と聞き、「よかったらたくさんもらったので持ってきます!」と言って即座に持参する私。

ささやかながら心がけたのは、あげっぱなしにするのでなく、買い物ついでに感想をお伺いすることであった。何しろこれからも持続的にもらっていただかなければならないのである。

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