それでも実写『ルパン三世』を作るワケ 監督&プロデューサーが語る「逆風覚悟の挑戦」

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アニメのテーマ曲が使えなかったのは逆に正解だった

――『ルパン三世』のテーマが使えないというニュースがあり、どうなるのか心配だったのですが、実際に映画を観てみると、ジャズを基調とした音楽が非常に『ルパン三世』の世界観に非常にマッチしていました。これはまさにピンチをチャンスに変えた例ではないかと思ったのですが。

北村:音楽のアルド(・シュラク)と撮影のペドロ(・J・マルケス)は僕のハリウッドでの財産ですね。やはりハリウッドで得た財産はお土産として持って帰りたいということがあったのです。この2人は本当にすばらしい才能を持っている。

やはりあの(アニメの)テーマ曲を使ってしまうと、それはそれで結局はアニメの世界観に寄ってしまう。僕らが目指しているものはやはり新しいことをしたいということですから。それでも、さっき言ったようにスピリットは「ルパン三世」であるということを目指しているので、そういった絶妙なところはアルドの音楽が補ってくれた。そして最後の最後に布袋(寅泰)さんのとんでもなくかっこいいテーマソングが流れ、パズルのピースがバシッとはまったというわけです。僕らのルパンはこうなんだというのを示すことができて、これで正解だったと思います。

――北村監督のこれまでの監督人生は逆境と戦ってきた歴史じゃないかと思います。この連載も若いビジネスパーソンが多く読んでいるので、何か参考にできないかなと思うのですが。

(撮影:今井康一)

北村:逆境というものは、どんな仕事であっても、年齢なども関係なく、誰にでもあるものだと思います。いい時もあれば、悪い時もある。いい時に調子よくなるのは当たり前ですが、やはりきつい時にこそ、より一層ポジティブで巻き返さなければいけないと感じています。僕は最初にスタッフが集まった時にこう言いました。「これから大変なことになるけれども、苦しければ苦しい時こそ笑っていようと。そしたら大丈夫だよ」と。できる限りそれをやった結果、こういった素敵なエネルギーに満ちた映画ができあがった。やはりそういうことだと思うのです。もちろんきつい時はあります。しかし、きつい時にふさぎ込んでしまうと、どんどんネガティブなスパイラルに捕らわれてしまう。僕はいつも落ちれば落ちるほど、「もうこれ以上、下はない。ここで弾みをつけて上がればいい」という発想で、今まで逆境を乗り切ってきました。

――北村監督にとって山本プロデューサーとは?

北村:親父であり、同志であり、師匠であり、恩師であり、友達でもある。2人で会う時には、つい「きついんだよ、又さん」と愚痴をこぼす時もあるわけです。外では言わないにしてもね。でも僕が又さんを愛してやまないのはそこなんですが、普通なら「大変だよな、がんばれ」となるところを、彼は笑いながらもガツガツ食べているわけですよ。それで「龍平、お前は金では買えない経験しているんだよ。最高だよ、お前はどんどんいい監督になる」だって。「この人すごいな。俺、結構死にそうなんだけどな」と思っているんですけどね(笑)。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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