(第40回)潜水艦生活から学ぶ無病生活法・その2

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山崎光夫

 下肢の内転筋はヒトの原点である二足歩行に深くかかわっている。
 狭い潜水艦で行なわれていた運動のうち、内転筋を鍛える動作を日常生活で実行すれば、かなり効果的に健康が維持できそうだ。

 内転筋を強化する方法に両膝の内側を付けたまま歩く歩行法がある。この歩き方は、深呼吸同様、ヒトだけにしかできない。他の動物には不可能な能力である。これは、散歩ができない狭い潜水艦内でもできるウオーキングともいえる。

 わたしはこの潜水艦歩きを、少し跳ねる感じに改良して、“ちょこちょこ歩き”と名づけて実行している。跳ねて歩いてみればわかるが、親指と内股の筋肉への負担は相当なものがある。歩幅やスピードにもよるが、“ちょこちょこ歩き”はウオーキングの5~10倍の運動量があると思われる。これを室内で100歩実行すれば、通常の500~1000歩ほどの効果が期待できそうだ。雨の日や表に出られない日に、この運動は散歩代わりになって助かる。

 開脚前屈運動も内転筋を強化する。これはお尻をついた姿勢で両脚を開脚させ、上体を前屈させる体操である。骨盤全体を前に倒し、ヘソを床につける感じで上体を前に倒す。内股の筋肉が伸びきって痛く、開脚がままならない。また、前屈も体の各所に痛みが走って前倒しもかなり難しい。
 内転筋にどれほどの柔軟性があるかが鍵となるようだ。

 わたしは畳の上ではそのまま、板の間では薄手のシートを敷いて開脚前屈運動を日々実施している。その際、倒すときに息を吐きながら、起こすときに息を吸いながらの深呼吸を心がけた。そして、2年ほどかかってようやく額(ひたい)が床につくようになった。

 横綱の白鵬関が開脚前屈して胸をついている場面をテレビで見たことがある。相当柔軟な体の持ち主である。
 わたしの場合、今では何とか顎もつくが、胸は無理である。胸つきまではまだまだだが、遠い目標ではある。
相撲取りが踏む四股(しこ)は内転筋の強化に恰好のようである。足の先が頭より上に上がる力士がいる。白鵬関もその1人。これは内転筋の発達している証拠である。立会いにおける関取の一瞬の力とスピードは内転筋の強弱によるといえるかもしれない。

 わたしが開脚前屈運動を続けたお蔭で、腰痛や肥満から解消された。腹部の贅肉が取れ、ウエストも絞まった。それまでのズボンはゆるゆるになってしまい、息子のGパンが穿けるようになったのは、我ながら驚いた。

 開脚前屈運動のときに、さらに、両手をついて尻を上下する、開脚したまま骨盤を前後させる、前屈ばかりでなく左右にも倒す、上体を左右にひねる、上体を反らせて腹式呼吸をする、などの運動を付加している。

 また、ついでに、鍼灸師から教えてもらったツボのいくつかを押す。「足三里(あしさんり)」(むこうずねの外側で膝から約10センチ下)、「地機(ちき)」(むこうずねの内側で膝から指幅5本分下)、「三陰交(さんいんこう)」(内くるぶしの指幅3本分上)、「湧泉(ゆうせん)」(足の裏側で指を曲げてくぼむところ)などのツボを押す。

 畳一帖あればできる開脚前屈運動は健康を維持する、"未病息災"の魔法のポーズのような気がしている昨今である。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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