トランプ前大統領が準備する合法的クーデター 中間選挙まであと1年、法の抜け穴を巧みに突く

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バイデン政権は発足以来、パンデミックそしてそれに伴う不景気の対応に追われ、直近ではインフラ投資法案の可決に必死だ。だが、アメリカ社会の安定そして中長期的な繁栄に欠かせない強固な民主主義を維持するには大統領選挙プロセスの改善が必要であり、1887年選挙人集計法(ECA)の改正が欠かせない。

ECAは大統領選における各州の票の集計から議会で投票結果を認定するまでの手順を定めている。同法は大接戦となり選挙結果が大統領就任式2日前まで決着しなかった1876年大統領選やその後の大統領選の反省を踏まえ制定されたものだ。だが、同法は不明瞭な部分が散見され、各州の民意に反する候補を大統領として連邦議会が認定しかねない抜け穴が存在する。

また共和党が州議会の多数派を占める州では相次いで投票制限が導入されており、現在、連邦議会で審議中の自由投票法案(FVA)を可決してそうした行為を連邦レベルで防ぐことも不可欠だ。

2022年中間選挙まであと1年しかない

とはいえ今後、民主主義の崩壊ということについて、より広範囲にわたる国民が危機感を持たなければ、共和党と2人の民主党穏健派、キルステン・シネマ上院議員とジョー・マンチン上院議員(通称:シネマンチン(Sinemanchin)によってFVAの可決は阻止される運命にある。

2022年中間選挙(2022年11月8日)が近づき選挙サイクルに入ると、選挙関連法を議会で可決するのはもっと難しくなってくる。ましてや中間選挙で共和党が上院あるいは下院のいずれかで多数派を奪還すれば、絶望的となる。したがって、今後の選挙戦次第ではアメリカが民主主義を堅持し、クーデターを阻止できる残された時間はもはや数カ月しかなくなるかもしれない。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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