消えない産後の恨み。専業主婦の10年戦争 妻が発するSOSに、夫はいつ気づくのか?

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もし筆者が麗子さんの夫に会ったら、それはセレクション・バイアスですよ、と伝えたい。出産後も就業を継続できている女性は、妊娠中、体調がさほど悪くなかった人や、たとえ体調が悪くても休みを取れる人だ。続けられない状況にある人は黙って職場を去っている。

こんな具合に「わかっていない」夫の言動は、出産後も変わらなかった。ただ、麗子さんの場合、夫に家事育児をやってほしい、とは思っていない。同じ有名私大のサークルで出会って結婚した。交際中は「すごく優しくていい人」と思ったし、家庭に入ってからは、仕事が忙しい夫に対し、家事育児を自分が主に担うのは当然と考えていた。

それは、こんな発想からもうかがえる。麗子さんのママ友の中には、夫から「20時半くらいに帰宅する」と連絡が入ると「今は帰ってこないで。どこかで時間をつぶしてきて」と答える人がいる。小さな子どもを21時くらいに寝かしつけたい母親たちにとって、夕食も入浴も終わった中途半端な時刻に帰宅する夫は邪魔になる。

一方、麗子さんはこう考える。「働いて疲れて帰ってくる夫に、そういうことは言えない」。夫の勤務先の経営状態や夫の職種など、ひととおり理解している。

妻を苦しめる、片道2時間の”実家詣で”

そんな麗子さんから見た夫のいちばんの問題は、「妻と子どもより自分の親を優先している」こと。それは産後3カ月から始まった。「月イチで、彼の実家に行けって言うのです」。

麗子さん一家が住む首都圏の町から夫の実家まで、車で2時間強。渋滞にひっかかると6時間かかる。新生児を連れ、ミルクをあげるために休憩を取りながら、麗子さん自身が運転して帰省することもあった。「親に自分の子を見せたい気持ちはわかるけれど、さすがにしんどい」と感じながらも、月1回の帰省は第1子が小学校に入学するまで続いた。

平日は朝6時に家を出て帰宅は22時、23時。そんな夫の働きぶりを見て、麗子さんは「第2子は絶対、里帰り出産」と思った。だから早くから計画を立て、実家近くの産院を調べたという。仕事が忙しい夫に「手伝って」とは言えない。

休日、夫に子どもを任せて麗子さんが買い物に出かけると「ウンチしちゃったんだけど」と電話がかかってきた。「そのくらいやってよ……」と思いつつ帰宅すると、オムツは換えてある。問題はスキルでなく、やる気がないことだった。

夫に期待できないから、せめて、実の母のサポートを受けられるところで出産し、産後を過ごしたいというのは、主婦の立場から見ればごく当たり前だ。

それが夫には通じなかった。そもそも夫は妊娠・出産・育児の大変さを理解していなかった。「お前がいない間、俺はどうなるの? 俺が、働いているんだけど……」と言われ、結局、実家に帰ったのは飛行機に乗れるギリギリの産前1カ月。今回も切迫早産を経験している。そして産後1カ月で首都圏の自宅に戻ってきた。

「そしてまた、地獄の日々が始まるわけです」

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