日本が中国に「貿易戦争」で勝った日 「レアアース紛争」から4年、中国「WTO敗訴」の意味

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もとより、中国のレアアース資源の供給量は世界の95%を占める。タングステンは86%、モリブデンも29%といずれも世界ではNo1シェアだ。だからこそ、中国はレアメタルやレアアースを外交カードとして利用、今も日本の足元を見ながら「姑息」な手を打ってくるのである。

昨日の友は、今日の敵なのか

そもそも、一昔前のレアアースは、用途もあまりなく、せいぜいライターの火打石やガラスの添加剤にしか使わなかった。私が1979年ごろから中国から開発輸入をしたのが日中間の本格取引の幕開けだったが、当時はいくら資源があっても技術力もなかった中国にとっては、もて余してきた材料だった。だが2000年以降になると状況はがらりと変わった。ハイブリッド車のモーターや電池に大量に使われるようになった。携帯電話やパソコン、家電製品向けでも需要が拡大していったため、レアアースが国家戦略に組み込まれるようになったのだ。

昔は、レアメタルやレアアース原料を対日輸入しても毎回クレームになったものだ。だが、中国側も、徐々に安いだけではないとわかってくれた。それに伴い、熱心に品質の向上を目指してくれる、中国の精錬工場との取引が成功しはじめた。つまり、日本で再処理をしなくても、充分使用できる品質が確保できるようになってきたのである。ここには、世界一厳しい日本の環境規制に合致させるために、技術交流を通じて中国の現場に最先端の処理技術を持ち込んだ、技術者たちの努力があった。その意味でも、日本は、中国の産業界に多大なる貢献をしたといえる。

話を現代に戻そう。「3品目のWTO協定違反」確定後、中国には徐々に変化も起こりつつあるようだ。確かにWTOには強制力はない。だが、実は中国は他国の保護主義に対しては、別途WTO違反とクレームをつけている。よって、「中国だけ、ルールを無視するわけにはいかない」ことも、政府レベルでは理解している。

例えばインドネシアのニッケル鉱石の輸出禁止については、日本と協力してWTOに提訴している。また、EUが中国製の太陽光パネルに反ダンピング関税を課す仮処分に対して、中国は欧州産ワインのダンピング調査に乗り出している。このことからもわかるとおり、通商紛争は激化の一途をたどっているから、レアアースやレアメタルだけでミソをつけるわけにもいかないのだ。

とはいえ、中国に足しげく通っていると「対抗措置を講じるかもしれない」との噂も聞こえてくる。例えば、「レアアースの輸出制限枠の撤廃」を2015年からに、「輸出税の廃止はさらに先延ばし」しながら、同時にレアメタルやレアアースの資源税を導入することで、事実上、WTOの敗訴に対抗を企てようというのだ。

すでに、早耳を持つ鉱山や精錬工場関係にの「資源税を何%にするか」という裏情報まで入っており、すでに対応した形で投機をしようとしているらしい。すでに中国当局はレアアースの緊急備蓄も行っているし、タングステンの政府備蓄の時期まで噂が噂を呼んでいるので、ギャンブル好きの中国人投資家は、雲南省のレアメタル取引所のコモディティーを購入する用意をしているという。

多くの日本人は、こうした、中国のような「徹底抗戦」をするような発想はもともとない。あくまでWTOルールを順守しながら相手方の対応に期待する、紳士的対応に終始せざるを得ないようだ。中国には、「国内の産業政策であるからWTOでは問題視できないだろう」との思惑が見え隠れしており、ルール違反ギリギリのところでせめぎ合いが行われるため、通商紛争は激化こそすれ、収束は難しいのかもしれない。

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