部活で起きる「男子への性的暴行」知られざる問題 男性が性被害を言い出しづらい5つの理由

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5つめは、指導者との密接な関係性だ。これは男女に共通することだが、コーチが部員と寮で共同生活をしている学校部活動は少なくない。学校生活以外の共有する時間が長く、なおかつ、そこには社会と隔離された空間がある。

寮の門を閉めてしまえば、もしくは「監督室」のドアに鍵をかければ、容易に密室になる。異性の選手との面談やマッサージなどをする際はドアを開けておくなどと注意を促す競技団体もあるが、異性に限らず徹底させるべきだろう。

さらにいえば、生徒の心情を思いはかることが重要だろう。指導暴力の取材をすると、よく聞かれるのがこの言葉だ。

「みんな我慢していたから、自分だけ弱音を吐くことはできなかった」

暴力や理不尽な指導が、法的に暴行罪などにも問われると考えていないことが多い。この、スポーツに必要な強固なチームワーク、絆が、裏目に出ることがあるのだ。

以上のような5つの理由を理解し、性虐待を嫌悪する社会を形成することは必要だ。そのためには、「スポーツ現場の暴力やパワーハラスメントをなくし、部活動を正常化することが必須だ」と高峰教授は力を込める。

男子への性虐待は、世界的な問題

同教授も寄稿した『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』(合同出版)の制作に協力した国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、日本の指導現場で暴力や暴言がはびこる実態を調査した。スポーツに関連する5団体とともに10月12日、スポーツ庁及び東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に対し暴力を根絶するための専門的な独立機関設立を求める要望書を提出した。

HRWのグローバル構想部長を務めるミンキー・ウォーデンさんは、男子への性虐待について「日本だけではなく、世界的な問題だ」と訴える。

「少女だけでなく、少年もまた性虐待を受けやすいのに、報告しにくい。(少年への)すべての虐待は明るみにならない実態がある。例えばハイチの調査では、ハイチのナショナルフットボールチームで子どもの頃に虐待を受けた男性に何人かインタビューした。彼らはコーチと一緒に生活しなければならず、虐待によるトラウマ、PTSDが残っている」

男の子には関係ない──。そんなタブー視や黙認をせず、現実に向き合うことが必要だ。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文芸家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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