「液体ミルク」を自治体が「防災備蓄」する深い意義 豪雨で孤立の島根県飯南町は「道の駅で備蓄」

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「明治ほほえみ らくらくミルク」は、乳幼児商品で初めて、「日常時」と「非日常時」の垣根をなくすという考え方に基づいた「フェーズフリー認証」を取得した。

明治のニュートリションマーケティング1部の江原秀晃氏は、「災害に備えて何か災害専用品を備蓄するのは大変なことであり、災害時に普段使っていないものを使うのは難しい。日常時から災害時に強い商品を使用していれば、災害時も普段に近い生活が送れる」と言う。

育児負担軽減の時短アイテムとしての活用

日常と非日常の境目をなくすためにも、「液体ミルク発売の目的の1つに、育児負担の軽減という社会課題の解決がある。夜中の授乳、お出かけ時、朝など、まずは忙しい時に、時短アイテムとして使ってほしい。また、昨今は父親の育児休暇の法整備化や、コロナ禍による在宅勤務などにより、父親の育児参加が注目されている。粉ミルクは計量間違いや、温度調節の難しさなどがハードルとなっているので、液体ミルクを上手に活用してもらえれば」(江原氏)。

乳幼児ミルク市場において、液体ミルクのシェアはわずか3%だが、「海外先進諸国の状況や、地震などが多く防災備蓄需要がある日本の現状から考えると10〜20%まで拡大する」(江原氏)と見ている。

前出の乳児用液体ミルク研究会の末永氏は、第1子の育児中に液体ミルクの実用化を求め活動をはじめ、液体ミルクの発売後に第2子を出産。液体ミルクのない育児とある育児、両方を経験した。

そのうえで「液体ミルクはすぐに使えて便利。外で使えるありがたさを身をもって実感した。あとは販売店が増えてくれたら。

液体ミルクが発売されたばかりの時、ドラッグストアの店頭になく消費者からの声に押される形で取り扱いを開始したお店も多かったが、それでも今でもまだ置いていないところがある。液体ミルクがどこにでも売っていれば、液体ミルクすら持たずに出かけることができる」と、さらなる普及が子育て環境の改善につながると信じている。

明治は9月28日に、1歳〜3歳頃の発育に必要な栄養を補給できるフォローアップミルクの液体ミルクも発売した。

一方で現役の子育て世代以外ではまだまだ認知度が低く、有識者の中ですら「母乳がいちばん」「液体ミルクが普及して手軽に母乳をあきらめては困る」「赤ちゃんのことを思いながらミルクを作るのも大切な時間」という人もいる。

「今のお母さんはみんな『母乳が最良の栄養』という前提知識を産前産後に学んでいる。その上でさまざまな事情からミルクを使って育児している状況があります。母乳をあげたくないから母乳をあげないわけではい。母乳推進とミルクは、本来対立すべきものではなく、周囲には批判や助言よりもサポートをお願いしたい」と末永氏。

昨年の出生数は84万0835人と過去最低を記録し、今年はさらに下回ることは確実視されている。その一方、2020年度の育休取得率は12.65%と過去最高を記録(雇用均等基本調査の速報値)、前年の7.48%から大幅に飛躍した。

少子化はますます進んでいるが、子育て環境は時代に合わせて少しずついい方向へ変化している。

時代とともに育児方法も変われば、人々の考え方も変わり、子育てアイテムも進化する。これから子育てをする人たちにとって、より子育てしやすい未来を社会全体で作っていけるといいだろう。

吉田 理栄子 ライター/エディター

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よしだ りえこ / Rieko Yoshida

1975年生まれ。徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、旅行系出版社などを経て、情報誌編集長就任。産後半年で復職するも、ワークライフバランスに悩み、1年半の試行錯誤の末、2015年秋からフリーランスに転身。一般社団法人美人化計画理事。女性の健康、生き方、働き方などを中心に執筆中。

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