人気! 人間国宝の茶碗で抹茶が飲める美術館 入館数毎年5%増! 究極の「お客様志向」を発揮

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来年6月には世界から240人のアーティストを選考し、総額5000万円の賞金・副賞を懸けた「アートオリンピア2015」というアートコンペも企画しているそうです。日本だけでなく、世界に発信できる美術館を目指していくのです。

どうしても、美術館は来館する目の前のお客様に目が行きがちですが、収蔵品とコンセプトを通して価値を提供する相手が「自社のお客様」だと考えると、やるべきアクションは美術館の外にも広がっていくはずなのです。

大船渡市での出張美術館。3000人以上の方が訪れた

モノがあふれた時代のモノの売り方のヒントがある

今回、取り上げた美術館のアクションは一見、「モノがあふれた時代のモノの買い方、売り方」の参考にならないように見えます。しかし、実は大きなヒントが隠されています。

「人間国宝のお茶碗で抹茶が飲める」「出張美術館」の2つのサービスの共通点は、美術館に来てもらうために、美術を好きになるきっかけを提供している点です。特に、一般の方にはハードルが高い美術品のようなモノの場合、好きになってもらう、興味を持ってもらうところに最初のハードルがあります。これは、程度の差こそあれ、どんなプロダクトにも言えることで、モノがあふれた時代にお客様を増やすには、まず興味を持ってくれるお客様のパイを増やすことが大事なのです。

たとえば、「あの美術館へ行けば、人間国宝のお茶碗が見られるよ」と誘われるのと、「あの美術館へ行けば、高い茶碗でおいしいお茶が飲めるよ」と誘われるのでは、どちらが魅力的に聞こえるでしょうか?

前者の誘い文句で来てくれる方々は、ありがたいお客様ではありますが、とても限られた人であると同時に、そもそもこちらから強いアプローチを必要としないお客様でしょう。

後者の誘い文句で来てくれる方が大半です。実際に足を運んでもらうためには、むしろ本質的な欲求、たとえばおいしさや楽しさを訴えかけて、まずは美術に興味を持つ入り口を作ることが必要なのです。

これは、「出張美術館」でも同じことが言えます。学校の体育館という気楽な場所、それも無料で開催することで、「ちょっと暇だからのぞいてみるか?」と思わせる環境を作り出しているのです。

こうしたアクションは、興味を持ってくれる人を地道に増やしていくものですから、すぐに売り上げに直結するわけではありません。しかしながら、人は最初に興味を持ったきっかけを覚えているものです。

私自身、自分が美術を好きになった美術館と絵の名前、そしてその理由はずっと覚えています。ちなみにその理由は、絵の持つ強いエネルギーの裏に、愛憎劇があったことでした。やはり何か身近な興味と重ね合わせられないと、美術のようなハードルが高い対象には興味は持ちにくいのかもしれません。しかし、一度興味を持てば持続します。興味の入り口は、何でもよいのです。

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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