ロンドン地下鉄、延伸の背景に「ある施設」の影響 沿線に「空中プール」も出現、007の舞台になる?

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工事は2014年に政府承認を得て翌年に着工。2017年4月からは2本のシールドマシンで同時に上下線のトンネルを掘削、7カ月余りで貫通した。ただ、既存線との接続部分となるケニントン駅の南側は古い壁の強度などがわからないとの理由から、最終部分は「手掘り」で作業を行ったという。

延伸区間の新駅にホームドアは設置されなかった(筆者撮影)

ただ、残念な点も2つある。1つは新造車両の追加がなく、従来車両のみでの運行となったこと。もう1つは新駅にホームドアが設置されなかったことだ。同じ新路線でも、来年2022年前半に運行開始予定のロンドン横断鉄道「クロスレール」(エリザベス・ライン)に設けられるほとんどの駅はホームドアを設置していることを考えると、これは残念といわざるをえない。

新駅は「ジャケ写」で有名な旧発電所前

とはいえ、新区間は「欧州最大の都市内再開発エリア」とされる地域への乗り入れとなり、現地では大きな期待が寄せられている。

バタシー・パワー・ステーション駅前。右側に駅名の由来となった旧発電所の煙突が見える(筆者撮影)

バタシーには1930年代から1983年まで稼働していたかつての火力発電所がある。テムズ川沿いに建つ、4本の煙突を持つレンガ造りの巨大な建物はロンドンの代表的近代建築として、幾度となくロックやポップ音楽のジャケット、映画やテレビドラマの舞台になった。最も有名なのは、英国を代表するロックバンドの一つ、ピンク・フロイドが1977年に発売したアルバム『アニマルズ』のジャケット写真だ。

しかし、発電所としての機能を停止して以来、幾度となく取り壊しの危機にさらされてきた。1980年代には跡地を室内遊園地に改装し、ロンドン・ビクトリア駅から鉄道を敷くという構想も持ち上がったが、1990年代前半の金融危機で計画は消滅した。その後、オフィスビルやショッピングモールへの改築、さらにはサッカー・プレミアリーグのチェルシーFCのホームグラウンドを作るプランなどさまざまな提案が出されながらも、どれも実現に至らなかった。

紆余曲折を経て、現在はマレーシアのコングロマリットであるサイムダービー(Sime Darby)、同国の公的年金基金及び不動産開発会社のSPセティア(Setia)によるコンソーシアムが再開発を手掛けている。完成は2022年の予定だ。

再開発の完成後は一般向けのマンションが254ユニット設けられるのをはじめ、100軒を超えるショップやレストランの入るモール、1400人収容のイベント施設のほか、アップルが新たに開設する「ロンドン・キャンパス」と呼ばれる施設の入居が決定。煙突の1本が展望台に生まれ変わる計画もある。

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