日本株が一時急落したのは中国恒大のせいなのか 「中国版リーマンショック」はやって来るのか

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恒大を含めた中国全体の債務問題がリーマンショックの再来となる、との言説もよく聞く。実際、BIS(国際決済銀行)によれば、中国の民間非金融部門の債務(銀行、証券、保険を除く企業と家計の債務合計)は、今年3月時点で経済規模(名目GDP)の2.2倍を超えている。

アメリカでリーマンショック直前に最も民間非金融部門の債務が膨らんだ時点でも、同国の名目GDPの1.5倍に達していなかった。中国の現状の深刻さがうかがえる。

「日本株浮上のカギ」は何か

しかし、リーマンショックがまた来るかのように騒ぐのは、いきすぎだろう。まず、アメリカの金融市場が広く世界に開かれ、同国の金融の動揺が世界に伝播したのとは対照的に、中国の金融市場はかなり閉鎖的で、世界的な負の連鎖は起こりにくい。

またリーマンショックの本質は、住宅ローン債務の劣化であるが、当時は同ローンの中で質が悪いサブプライムローンが証券化され、投資家に転売されていた。それだけでなく、証券化ローンをほかの証券とまとめて証券化したCDO(債務担保証券)が販売され、さらにCDOを組み入れたCDO、さらにそれを組み入れたCDOと、金融商品が複雑化した。

その結果として、もともとのサブプライムローンが多く劣化した際に、その損失を複数のCDOを経由して最終的にどこの誰が負担するかがわからなくなり、突然どこかの投資家(金融機関を含む)が破綻するかもしれない、との恐怖が伝播して、市場がパニックに陥った。

それに対して今の中国では、確かに「理財商品」として一度は融資が転売はされていたようだが、とくに中国以外に金融商品という形で転売が広がっているとは考えにくい。

とすれば、恒大を含む債務問題は中国にとっては大きな問題だが、それ以外の国にとっては限定的な影響を受けるにとどまりそうだ(ただし過度に楽観視するのは危険)。

このため、日本を含む諸国(中国を除く)の経済や企業収益、株価については、中国の経済が大きく混乱するのかどうか、その影響が他国にどの程度間接的に及ぶのかを、見極めていくことになるだろう。

残念ながら、中国と地理的に近く経済的な関係も深い日本の株式が、世界の投資家から欧米株などを上回る買いを集めるとは期待しがたい。日本株の浮上のカギは「脱中国」だろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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