"小田急色"をあえて消した「下北沢再開発」の勝算 地上の線路跡地にさまざまな施設を多数建設

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小田急線の下北沢駅。地下化によって地上の線路跡地が開発可能になった。その右には京王井の頭線の下北沢駅がある(記者撮影)

小田急電鉄が和泉多摩川―東北沢間10.4kmの複々線化事業を2019年3月に完了してから、2021年9月で2年半が経過した。

複々線化により列車の増発が可能になったことで混雑緩和や速達性の向上など鉄道利用者にとっては大きなプラス効果があったが、複々線化の副次的な効果も沿線にじわりと広がりつつある。世田谷代田―東北沢間約1.6kmを地下化したことで、地上の線路跡地が開発可能となったことである。

そこに何を造るか。鉄道会社の不動産開発というと大型オフィスビル、商業施設、マンションなど収益性の高い物件の建設を想像しがちだが、小田急の考えは違った。収益の最大化を図るために「街を変える」のではなく、すでにある街の姿を最大限に尊重し、その発展につながるような開発計画を策定した。小田急はこれを「支援型開発」と呼ぶ。

約1.7kmの細長い敷地は複数のブロックに分けられて工事が進められ、完成したものから順次、利用が始まっている。

LPレコードを楽しめるホテル

9月16日、下北沢駅から徒歩5分の場所に新しいホテルがオープンした。街づくり企画などを手掛けるGREENING(グリーニング)が運営する「MUSTARD HOTEL(マスタードホテル)」である。建物は2階建てで周囲の住環境に配慮した。全60室にレコードプレーヤーが配備され、地元のレコード店がセレクトした300枚のLPレコードの中から好きなものを無料で視聴することが可能だ。

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若者の街、下北沢には中古LPレコードを扱う店が多数あるが、音楽だけでなく古着やグルメも魅力の1つ。国際的なタウンガイド誌『Time Out(タイムアウト)』は、2019年の全世界対象の都市調査「世界で最もクールな街」で下北沢を世界第2位に選出している。同誌では「東京にとっての下北沢は、ニューヨークにとってのブルックリンのような存在だが、唯一違うのはもっとイカしていること」として、「歩いて探検するのにぴったりの広さ」だという。コロナ禍が収束すれば世界中から旅行者が下北沢を訪れ、街を散策するだろう。店で購入したレコードをすぐに客室で聴くことができるのは、このホテルの大きな優位性になる。

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