米男性、週末集まり『ザ・ソプラノズ』鑑賞 中年の危機…マフィアも仕事と家庭の板挟み

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このトニーのポジションと苦悩は、中間管理職のそれを思わせるものがある。北野武監督のスマッシュヒットとなったヤクザ映画『アウトレイジ』(2010年)の規模は小さいが武闘派の組長・大友にも共通するが、上層部のムチャ振りに懸命に応えて忠義を尽くしても、利用する価値がなくなれば、あっさりと厄介払いされる理不尽さ。企業ものの社会派サスペンスドラマなどにも、こうした設定や図式は珍しいことではないだろう。

女子会のお供は「SATC」、男子会のお供はこれ!

『ザ・ソプラノズ』は、非常に人気が高かった大ヒットシリーズだが、とりわけ働き盛りの男性の視聴者を熱狂させた。筆者のアメリカの友人は、会社の男性社員たちが週末に集まって、『ザ・ソプラノズ』を一緒に見ているとあきれ顔で語っていた。女子会のお伴が『セックス・アンド・ザ・シティ』なら、男子会のお伴は『ザ・ソプラノズ』なのだ。『セックス・アンド・ザ・シティ』が女性の生き方に鋭く踏み込んだ内容であるのと同様に、『ザ・ソプラノズ』に登場するバイオレンスやセックス描写の過激さだけが男性に人気の理由ではないだろう。

無能な上司からはやいやい言われ、下からは文句を言われ、理不尽さに耐えながら毎日、歯を食いしばって頑張っているのに、正当な評価が得られない。マフィアという特別な世界を描きながらも、多くの人の共感を得られた理由は、まさに会社人生の矛盾を非常にわかりやすい形で描いているからにほかならない。

そして、普通の社会では許されない罵倒や、力で相手をやり込めるストレートな反撃には、胸がスカッとするカタルシスがあるのだろう。もっとも、これは男性だけが感じる痛快さではないとは思うが。

子どもたちにも手を焼く

さて、外の世界でストレスいっぱいのトニーだが、家庭も心休まる場所ではない。40代にして念願の豪邸をようやく手に入れるも、妻カーメラ(イーディ・ファルコ、『ナース・ジャッキー』で主演)は子育てなどのストレスでぴりぴりしているし、優秀な長女メドウと悪ガキの長男アンソニー・ソプラノ・ジュニア(通称TJ)は反抗期だ。

トニーはずっと、妻をぜいたくに着飾らせて有閑マダムのような暮らしをさせてやり、子どもたちは有名校に通わせてエリートの子女のごとく、後ろ指を刺されないように教育を受けさせることが夢だった。

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