アフガン撤退の米国、東南アジア外交のちぐはぐ インドネシアを回避、その真の狙いは何なのか

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日米が進めようとするFOIPに対して、ASEANは2019年6月の首脳会議で「インド太平洋に関するASEANアウトルック」(AOIP)を採択した。ASEANを中心とした融和的な協力関係の推進をうたった文書だが、まとめ役となったインドネシアとの対話はFOIPとすり合わせるうえでも重要である。

軍事クーデター後のミャンマー情勢を分析し、対応を検討するためにもASEANで対話の先導役を担おうとするインドネシアの存在は欠かせない。

バイデン大統領は3月、就任後初の記者会見で中国との関係を「民主主義と専制主義の闘い」と規定した。ヨーロッパや日本ではともかく、東南アジアではまったく響かないフレーズだ。ASEAN10カ国のほとんどが、今や専制主義といわぬまでも権威主義の色合いを強めているからだ。

インドネシア外し「2つのシナリオ」

クーデターの首謀者が君臨するミャンマーとタイ、選挙で選ばれたものの強権的な政権運営に傾くフィリピンや野党を解体したカンボジア。いずれも、いったんは進展したかに見えた民主化が後退した国々だ。ベトナム、ラオスはもともと一党独裁、ブルネイでは選挙さえ実施されていない。

そうした中で、曲がりなりにも選挙で選ばれた文民が2億7000万人を統治するインドネシアとの対話を優先しないアメリカの意図は何か。

2つのシナリオが考えられる。1つは単なる外交センスの欠如。アメリカには実際、国務省にしろ大学などの在野にしろ、東南アジアの専門家がそう多いわけではない。

もう1つは、あえて外した可能性だ。内政不干渉、全員一致のコンセンサス方式が原則のASEANは結局、対中国でも対ミャンマーでも肝心な場面では機能しないと見切り、域内大国のインドネシアを意図的に遠ざけたとの見方だ。

ASEANとの関係は重要だと口先では唱えつつ、対中戦略で重きを置くのは日本やインド、オーストラリアとの「クアッド」であり、それを東南アジア各国との関係で補完する。域内唯一の先進国シンガポールと、南シナ海で中国と向き合う姿勢のぶれないベトナムがそれだとすれば、相次ぐ閣僚の訪問も平仄があう。

かつて植民地としていたフィリピンを除けば、アメリカと東南アジアのつながりはそもそも薄かった。戦争という形でインドシナには強烈に関与したものの、事実上の敗戦といえるサイゴン陥落がアメリカ国民のトラウマとなった。その後の冷戦終結もあってタイやフィリピンの基地からアメリカ軍は引き上げ、世界で最も急速に経済成長する地域との距離感を広げた。

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